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「あの、お話があります」と葵が言うので、とりあえず木野は葵を自分の車に乗せた。

 こうして木野の車の助手席に人が座るのは、林朝陽以来のことだった。

 木野と朝陽はこうして、車の中でバイト終わりに話をすることがよくあった。 

 でもそれは朝陽が男子高校生だからであって、こうして女子高生である立花葵と夜の車の中で、二人っきりになるという状況がよくないことだということは、慎重な木野には考えるまでもなく理解できていた。

 でも、断ることもできないのだ。

 葵は明らかに木野に相談がある、と言ったような雰囲気を出していたし、わざわざ人目を避けて、夜の寒い駐車場で、一人で木野のことを待っていてくれていた。

 そのこと自体には、木野はそれなりに嬉しいと思ったし、葵の力になってやりたいとも思ったのだ。

 木野は葵の言葉を待ったが、葵は自分からはなにも言葉を話さなかった。

「話ってなんなの? なにか僕に相談事でもあるの?」と木野は言った。

 すると葵はこくんと頷いた。

 それから葵は木野に相談事を始めた。

 その相談とは、やはり恋の相談だった。

 木野は恋の相談事をされることがとても多かった。朝陽にしても明日香にしても、それから匠にしてもそうだった。

「私、好きな人がいるんです」と葵が言った。

 その言葉を葵本人の口から聞いて、木野は少し驚いた。

 もちろん、葵が恋をすることは少しも変なことではない。葵は明日香に負けないくらいに綺麗な子だし、むしろ当然のことだと思った。

 でも、強い子であると思っていた葵は、この十六歳という多感な時期でも、このとても強い嵐の吹く荒波の中で、たった一人で船を出して、その波を乗り越えて海を渡っていくというようなイメージが木野の中にはあったのだ。

 少なくとも木野には、葵が人生のパートナーを求めているようには見えなかった。

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