Shout!!
夕凪 春
とんでもなくイカした奴等
「よし、テメーら行くぜ! ビビってんじゃねえぞ!」
「お、おう!」
「いつも通り、楽しもうー!」
「……ウス」
まだかまだかとざわめくスタンド。それとは対照的に静かに座するアリーナ。だが、開幕を告げる合図とも言える爆音が響くとそのどちらもが大きく歓声を上げる。
――視線の先にあるステージへと。
「お前ら待たせたな! それじゃ一曲目はこれだ! 俺達の原点とも言えるこの曲から――」
ついに始まったな。よし、立ち上がりは上々。いつも以上に気合いの入ったスタートだ。
実を言うと今日は一睡もできなかった。いや、二時間くらいは意識が飛んでいたからそれは言い過ぎになるか。とにかくだ、今日という日を全力で迎えたかった。
どうやらそれは奴等も同じようだった。全員漏れなく目の下に隈ができてやがんの。バカか? バカじゃねーの! どんだけだよ、最高かよ。
いや、やっぱバカだわ。訂正。最上級のバカかよ。うん、やっぱりそれでこそだよな俺達ってもんは。
▽▽▽
いっつもバカなことをしてきた。何かの映像で見たとあるバンドのパフォーマンスを真似て、電流を流そうとかバカが言い出したことがあった。それをどこかのバカが真に受けて本当にやりやがった。そしたら違うバカが怪我して入院してやんの。まあ、それを見て指差して大爆笑してた奴も大概バカだが。
他には路上ライブが禁止されている区域で、ゲリラライブをやったこともあった。禁止されれば『それはやれ』という前フリだろうと主張するのが俺達。巡回中の警官に追いかけられた時の奴等の必死の形相は、今でも思い出すだけで笑える。
俺たちはとにかく普通であることを嫌った。奇をてらうのをとにかく面白がった。それがウケてるかどうかなんてのは関係ない。ただ心の赴くままにやってきたつもりだ。
ただやっぱりそれだけではダメだったみたいだな。一部のコア層を除いてネットでの評判はあまりよろしくなかった。特にボクは音楽に詳しいですと言わんばかりのファッキンクソッタレどもにはボッコボコに叩かれたっけな。『音楽の体を成していない』だと? それはどうもありがとうよ。
所構わず好き勝手やり過ぎたツケなんだろうな、この状況。デビューなんてのは夢のまた夢の話。俺達だっていつまでも遊んでいるわけにもいかねえ。そろそろ就職やら小難しいこと考えないといけない時期まで来てる。
ただ俺は一つだけ思った。「俺達は今まで全力で音楽と向き合ったことはあったのか?」と。ただのおふざけで満足だったのかと。
それを奴等にも問い掛けてこの日に至る。今日くらいは真面目に聞かせてくれよ?
答えはそうだな――。
高橋、もっと目立とうとしろ。お前は間違いなくすげぇギターテクしてんだよ。それを聴いてる奴等全員に見せつけてやれ! 見えないところでお前が努力してるの俺は知ってるんだぜ? だから俺に遠慮なんかしてんじゃねえよ! 思いっきりぶっぱなせ!
芹沢よ、お前ほどの腕があるのにこんなところで燻ってちゃダメだ。特にベーシストなんてのは引く手数多だ。なのにどうして俺達と一緒にいるんだ? お前は口数が少なすぎるから何考えてるかわからねえんだよ。その心に響くゴリゴリのベース音みたいに、俺達にも主張をしてくれよ!
相変わらず走ってんな、大和。気づいてはないだろうけどそれがお前の悪い癖だ。他の奴等が皆引っ張られちまうだろうが。夢中になれるのはいいことだが、もう少し周りを見てくれ! ただ、お前の底抜けに明るいところには何度も助けられたな。もはやお前というドラムがいないとこのバンドは成り立たねえ!
それからお前。ギターもボーカルも普通だ。そんなのでよくこいつらのリーダー面なんてしてられるな。テクがねえならテメーにはもう、根性しかないだろうが! もっと大声と全力出せんだろ、喉が潰れるまでやれよ! ……ああ、よくわかってるよクソが!
――いい所も悪い所も全部ひっくるめろ!
最後にはもってこいだ。望み通り、どこまでも付き合ってやる。これまで自由に好き勝手やってきたんだ。俺達だけの特大の花火をぶちあげてやろうぜ!
限界を越えて後悔のないラストシーンを迎えようじゃないか。
俺達はこの道で上手くいかなかっただけの話だ。なにもこれで人生が終わるわけじゃない。
なのにどうしてだよ。涙が溢れちまう。カッコ悪すぎんだろ、俺。
本当は終わりたくなんてない。続けていたいんだ! この瞬間を、この高揚感を! 他でもないこの小さなステージで!
『あざっした!!』
すべてが終わったあとには、オールスタンディングの客席には数人しか残っていなかった。まばらな拍手が終わるとそれもすぐに、この場から姿を消していった。
余韻すらも残さないライブハウス独特の空気。だがそれも悪くない、不思議と心地は良かった。そしてここともお別れだ。俺達はこの先交わることもないだろう、それぞれの道を行く。
「終わっちまったな」
「で、でもオレ達、最高にロックだったと思わない!?」
「それだけは違いないねー! くそぅ、まだまだいけるはずなのになぁ!」
「もう、一緒に演れないのか……ッ」
芹沢が珍しく感情を露にする。その顔を見ていると俺はすぐにでも泣いてしまいそうだった。でも最後にお前達の答えを受け取ることができて本当に良かった。
「俺達に辛気臭いのは似合わねーな。こうなったら打ち上げ、ド派手にいこうぜ!」
「おー! もしかしてリーダーのおごりー!?」
「マジかよ!? ……ああ、任せろ! ほら行くぞ!」
――お前ら本当に最高だったよ。ありがとな。
『ああ、俺だがね。よく聞いてくれ。例のライブハウスでとんでもなく下手糞だが、とんでもなくぶっ飛んだ奴等を見つけたんだ――』
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