第9話 クリーチャー

 


【『1』ターン目・《クリーチャー側》】



 化け物が、襲ってくる…


 恐怖に耐えきれず、断末魔の叫びをあげる俺。

 でも、化け物が近づいてくる姿を見つめながら、ある事を思い出したんだ。

 俺の『HP』が、無限に近いっていう事をさ。



 確かに……化け物から攻撃を喰らうという事は、恐怖以外の何物でもない。

 けど、『死なない』だろうと確信できるわけだ。

 この確信は、非常に大きい。

 俺は叫ぶのをやめて、乱れた呼吸のまま後ろに下がったのである。



 下がれる距離には、限界があったけどね…

 空気の壁のような物があるのか、数歩下がっただけで、これ以上進めなくなるのだ。



 逃げられない-‐‐‐‐そんな絶望を目の前にして俺は、隣に位置する鮫島達に助けを求めた。



「鮫島君!松尾さん!なんとか……ならないですか?…」

「「…………」」



 けど……顔を横に向けても、彼らはまるで物が壊れる様(さま)を見るような冷たい目で、こちらを伺っているだけだ。

 それを見て、思い出したよ。

 そうだ忘れていた…あいつらにとって、俺なんかどうでもいい存在だったんだ。



 落胆の顔を下に向けると、化け物は俺の足元まで来ていた。

 目の前にある化け物の顔は、やはり口だらけだ。しかも、これは恐らく「人間の口」だ。



『アァァァア…』



 唾液まみれの無数の口は、わずか笑っているように見えた。



「はは。お前も俺を笑うのか?…」

『アアアヴヴヴヴヴゥゥア』



 化け物の叫び声と共に、大量の唾液が、顔目掛けて飛んできた。

 それを避けるためにも俺は目を瞑って上を向く。



 早く終わってくれ。痛いのだけは勘弁してくれよ…



 ちょうどその時だった。再度、機械音が頭に響いたのは。



〈『呪猫(カース・キティ)』の攻撃『噛み付く』が、実行されます〉



 機械音の言葉に、俺は上を向きながら目を開けた。少し不安が和らいだんだ。



 『噛み付く』だと……そんな可愛い技なのか。

 いくら容姿は化け物とはいえサイズ自体は子猫サイズである。口も、人のサイズ程度だ。



 実は、大した事ないんじゃないかな…



 俺はホッとして、険しい表情から徐々に柔らかい表情へと変わったと思う。

 化け物を見るために、ゆっくりと視線を下げる事が出来たんだ。



 よく見ると子猫みたいで可愛いじゃないか。どうせ噛み付くったって、俺の足を少しパクッとするだけだろ。



 俺の予想は的中した。

 化け物は、トコトコと足まで近づくとその小さな口で、足の脛(すね)部分へと口を当て、その後すぐに元の場所は戻っていったんだ。

 その姿はまさに、子猫だったよ。



 心配して損した……

 あっ… そういえばダメージの方は、どのくらいなんだろうか。

 俺の防御力は、約『10』だから1000とか2000ダメージくらいかな。



 なんて考えていたら、機械音が教えてくれたよ。



 –––現実をね。



〈『呪猫(カース・ケティ)』は『蓮』に『噛み付く』をした〉

〈『蓮』に『10000』のダメージ〉



 1万?…聞き間違いじゃないのか……



 想定外のダメージに俺は混乱した。再度、絶望へと突き落とされた。

 しかし、これだけで終わりではなかったのだ。



 先程、化け物から攻撃を受けた箇所が異常な熱を持ち始め、徐々に痛みを増してきたのであった。

 不気味な機械音は、まだ言葉を続ける。



〈今からダメージを、プレイヤーに貫通させます〉



 それを聞いて……俺の頭は、真っ白になったよ。

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