公務員スレイヤー

武論斗

プロローグ

一殺:公務員、死すべし

 209X年、日本はの急増に歯止めがかからなかった!

 国庫こっこれ、国体こくたいは裂け、あらゆる一般人は絶滅したかに見えた。

 しかし、民間人じんるいは死滅していなかった!


 ――テテテテーン、デデデ、デデデ、デデデ、デデン!



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 コンビニエンスストア。

 それは、まちのホットなステーション。

 なんでもそろう現代の万屋よろずや

 Godguruゴッドグルの地図検索で、お呼びでもないのに表示される帝国主義のやしろ、集金の万魔殿パンデモニウム

 異国情緒いこくじょうちょただよう移民の出稼でかせ。24時間、働けます。


 そんな資本主義の出城でじろにさえ、は出向してきている。

 それが、『公務員こうむいん』。

 正確には、“公務員”。

 どちらにせよ、搾取さくしゅするもの、圧倒的権力の犬、怠惰たいだの象徴、無用むよう長物ちょうぶつ画蛇添足がだてんそく具象化ぐしょうか、ヒエラルキーの頂点にくみする最底辺のゴロツキ、調子に乗った悪法の使い手にして担い手、白痴はくちの先兵、獅子身中しししんちゅうの虫。


 公務員とは、正規の公務員ではないものの、職務において公務に準ずる公益性、および、公共性を有しているものとし、あるいは、公務員の職務を代行するものとして、刑法の適用について公務員としての扱いを受ける厄介者やっかいものう。

 ゆえに、秘密保持義務が求められる上、公正妥当こうせいだとうな職務執行を担保たんぽするため贈収賄ぞうしゅうわい罪や公務員職権濫用らんようなどの汚職の罪、虚偽きょぎ公文書こうぶんしょ作成罪、公務執行妨害罪等が適用される。

 とは云え、下される条件に対して保証される恩恵は、ウルク第一王朝5代目、伝説の王ギルガメシュの宝物庫から下賜かしされる程の巨万きょまんの富、そして、威光いこう

 凡夫ぼんぷには理解しがた楽園ティル・ナ・ノーグへの片道切符と法のご加護。

 それは正に集金人、肥大し切ったボンボンの無心むしん、借りた金を倍にして返すとのたまう狂った博徒ギャンブラー、知性無きラインこう、実に効率的な貧民製造機、国民皆囚人かいしゅうじん世界における全能の看守かんしゅにしてゴミむし


 ひとえに――民間人じんるいの“てき”。


 本日もまた、巨悪の権現ごんげ公務員風情ふぜいのコンビニ店員による、血も涙もないバーコードリーダーが、悪鬼羅刹あっきらせつごとき消費税を、お前のほっする商品の希望小売価格に上乗うわのせる。無慈悲に。


 ピッ――


「8,000圓天イェンティエンになります」


 値札ねふだに記載ある小売価格の総計は『2,000圓天イェンティエン』。それをレジに通すと、無表情に店員は片言かたことの日本語で、そうこたえる。

 ――消費税300%。


「……現金、で」


「お値段変わりまして、10,200圓天イェンティエンになります」


 現取法げんとりほう――

 『現金の受入れ、預り金及び支払い等の取締りに関する法律』。

 仮想貨幣ならざる貨幣、つまり、紙幣や硬貨を用いての支払いや受領じゅりょう、流通、仲介、保管ほかさいし、100%の税率が下される。

 現金の取扱とりあつかいを行う法人は関係各処かくしょに届け出が必要となり、同法が適用、遵守じゅんしゅする限りにおいて金銭額の最大10%を手数料として受け取ることができる。


「…袋もお願いします」


「はい、1枚100圓天イェンティエンになりますが、よろしいでしょうか?」


「……はい」


「それではお会計、10,710圓天イェンティエンになります」


 1日分のバイト料の、その大半が消し飛ぶ極大火炎メラガイアー級の税制度。

 ボロボロの長財布から一万圓天紙幣を1枚、千圓天紙幣を1枚、10圓天硬貨を1枚それぞれ取り出し、釣り銭受けカルトンに置く。

 店員はおもむろ白手はくてを着け、現金をつままみ上げ、紙幣と硬貨をレジの投入口に流し込み、間もなくして出金口から出てきた300圓天を受け皿にせる。


 明煌あきらのサイフの中身は二千圓天紙幣が1枚とわずかな小銭のみ。

 明日もまた、日払いの仕事に就かざるを得ない。

 客のいないレジ前でサイフの中身を見ながら、しばらく考え事。

 コンビニ店員は何一つ態度は変えないものの、さっさとレジ前から消え失せろ、と無言の圧力を発している。

 無論、明煌あきらにはが分かっている。

 しかし、でも考え込んでしまう、程の日常にちじょう程の苦行くぎょう

 偏に、民間人であるが故の苦悩くのう


 一度まると逃れられない負のスパイラル。

 ちる、のではなく、雁字搦がんじがらめにされる、という表現が、およそ、正しいのではないだろうか。


 すでに日本の経済は破綻はたんしている。

 日本だけではない。先進諸国と呼ばれる国々の経済は、うの昔に破綻している。

 経済の破綻は、金融や物流、増え続ける人口や自然災害、貿易摩擦まさつや政治的思惑おもわく、戦争や病魔びょうまからではない。

 そんなな経済学は20世紀の時点で終焉しゅうえんしている。

 現代における経済破綻の原因は、行き過ぎたモラルと市民活動の結果に他ならない。

 ポリティカル・コレクトネスによる差別や偏見へんけんへの是正ぜせいは、民主主義的議席確保に大いに利用され、マイノリティを取り込み、あるいは、乗っ取り、自由主義的言動を封殺ふうさつ道徳善どうとくぜんとして国教こっきょうのように祭り上げられ、いつしかそれは法規的な文言をともない明記され、いつしか施行しこうされる。

 ようは、新たなの始まりである。


「お客様、他のかたのご迷惑となりますので申しわけ御座ございませんが――チッ」


 舌打したうち――

 片言かたことの、独特な節回しイントネーションの日本語でひとえに、レジ前から退け、と店員にさとされる。

 勿論もちろん、後ろに客なんて並んでいない。かされるわれは、無い。

 無人セルフレジすら使えない、使える権限もない俺ごときを相手に、時間を費やすだけ無駄。それは分かっている。

 ただ――

 少しくらい悲嘆ひたんれたっていいじゃないか。

 俺だって――


 ――人間、なんだ!



 ガシャン!!!

 高らかに耳をつんざく乾いた音。

 入り口の自動ドアが粉々に砕け散る。

 舞い散るガラス片がLEDライトに照らされ、ジルコンのように乱反射。

 ――パスッ、パスッ、パスッ!

 くぐもった発砲音に続き、天井各処かくしょに設置されていた防犯カメラが潰される。

 まねかれざる客の仕業しわざ

 奇妙な覆面マスケラに和装の風体ふうてい

 馬手めて打刀うちがたな弓手ゆんで短筒ガン

 コンビニ強盗?

 テロリスト?

 サムライ?

 ニンジャ?


 ――い、一体……

 何なんだ、は!?

 何事なにごと!?



「公務員、死すべし!!!」



 ――斬ッ!!!!!

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