第4話 それでも魔王

 

  「暇だなぁ」

  「もしかして、毎回その一言から始めてるんですか?」

  「いや、違うんだよアイラ。例えば、ちょっと砂がかかっただけで『痛い!』とか言っちゃう感じで、何もしてないだけで『暇だなぁ』って反射的に口に出してしまうんだ」

  「重症ですね」

  「アイラって俺に厳しくね?」


  今日も魔王は、玉座の間に鎮座していた。

  勇者は当然のように来ないのだが、いつ来るか分からないのが勇者。油断できないのだ。

  勇者がパーティを組んで挑みに来た場合は、勇者以外のパーティの一員の魔力に結界のセンサーが反応するのだが単独で挑みに来た場合、勇者の体内にも聖剣と同じ特殊な魔力が流れている。なのでセンサーに反応しないのだ。

  結論、勇者最強。


  アイラは任務を終え、新たな任務を与えてもらうべく玉座の間に来ていた。


  「あの、魔王様って完全にニ……」

  「いやぁ、こうやって精神統一するのも大変だなぁ!!勇者が来ない間、実質100年間もここで精神統一してたなんてなぁ!!いやぁ、大変なだなぁ!」

  「いや、ニー……」

  「しかも、こうやって僕達に的確な命令をしなければならない!いやぁ、実に大変!」

  「認めてください」

  「やめて!肩に手置いて哀れまないで!嫌だ!僕は!僕はぁ……」

  「ニート♡」

  「くそぉぉ!」


  アイラは魔王の肩に手を置き、にっこり笑顔でニートと諭らせる。

  ほとんどの僕が思っていたことだろう。朝起きて、歯磨いて、朝ご飯を食べて、玉座の間に座り、勇者を待って、そこで昼ご飯を食べて、勇者を待って、そこで夜ご飯を食べて、勇者を待って、風呂入って寝る。

 

  よく考えなくても、魔王は働いてないのでニートなのだ。

 

  「あぁそうですー!ニートですー!だけどニートでもしっかり僕達に命令しますー!だからニートの中でもかなり上のクラスのニートですー!」

  「開き直りました、ニートが」

  「そんなに魔王をいじめて何が楽しいんだ!!」

  「ふふっ、冗談ですよ、からかってただけです。本心ですけど」

  「もう魔王やめよっかな」


  アイラにからかわれ、しょげる魔王。

  アイラの前だと魔王の風格がゼロになるようだ。


  「それは困ります」

  「なんでよ?」

  「確かに今はニートな魔王様ですけど、それでも私たちの長です。それに私はあなたに拾われた時、あなただからついて来たんですよ?それはシャリーもブラッディも同じ気持ちだと思います」

  「そ、そうか……」

  「何、照れてるんですか?」

  「ぐっ……!」


  アイラはいたづらっ子のような笑みを浮かべる。

  完全に下に見られていた。このままじゃ、魔王の名が廃る。そう思った魔王は、


  「アイラお前、ちょうど任務が終わったところだったよな?……ぐへへ」

  「え、えぇ……」


  気味の悪い笑みを浮かべる魔王に、少し引きながら返事をするアイラ。

 

  「なら丁度良い!!これから修行をしてもらう!」

  「えぇ、了解しました」

  「まて」

  「え?」


  そう言って、修行場に向かおうとするアイラを止める。


  「誰が1人でやれと言ったぁ?」

  「ま、まさか……!」

  「そのまさか!俺と魔法使用不可の組み手をしてもらう!お前の長は俺だ!命令には従ってもらうぞぉ?」

  「えぇぇぇ!!」


  こうして、魔王とアイラの組み手修行が始まった。


 ---


  「ルールはいたってシンプル!魔法を使ってはいけない!どちらかがギブアップするまでが勝負だ!いいな?!」

  「は、はい……正直、乗り気じゃないですけ……ど!!」

  「急にかよ!」


  アイラの猛スピードの接近に少し反応が遅れ、後傾姿勢になる魔王。

  魔王の身長が178センチに対して、アイラの身長が155センチと実に23センチの差があるが、アイラは身長が低い分、瞬発的スピードを上げることにした。

  その結果、魔王の予想の斜め上に行くスピードを出され、反応が一瞬遅れた。

  決してアイラはその一瞬を逃すことなく、


  「いきます!」


  右拳を顔面目掛けて振り下ろす。が、


  「ヒッ……」

 

  魔王は狙っていたかのような笑みを浮かべ、アイラよりも一瞬速く蹴り上げる。


  「うぐっ?!」


  アイラは側腹部に衝撃を受け、そのまま左の方に飛んでいき壁に激突した。壁にはアイラが衝突したことによりヒビが入り、そのヒビが波紋のように広がっていた。


  「まさか、あの体勢で蹴りを入れてくるとは……」

  「魔王嘗めんな、あんぐらい対応できる」

  「流石です」


  アイラは何もなかったことのように起き上がった。やはり幹部なだけあるようだ。

  そしてすぐに攻撃体勢に入り、魔王に高速連続パンチをしかけるが全て掌で受け止められる。


  「いいか、アイラ。こういうのはな……」

  「?!」


  今度はこっちの番だと言わんばかりに拳を握りしめた。


  「一撃っ!一撃っ!重みを入れろ!腰を入れる、だけでっ!威力は、あがるっぞ!!」

  「ぐっ!ぐっ!ぐはっ!がはっ!」


  両腕で魔王の重い連続パンチをガードしていたが、3発目から耐えきれず、モロに受け、天井に打ち上げられた。


  「そして、お前はぁ!もう少し、休めぇ!!」

  「ぐふっ?!」


  魔王はなす術なく落ちてきたアイラよりも高い位置までジャンプし、後頭部にチョップをかまし地面に叩きつけた。

  アイラはドラゴンだが、今は人間の姿だ。後頭部に強い衝撃を喰らったせいで、気絶してしまった。


  「ふぅ……少しは休めよな、全く」


  アイラは真面目な性格のせいなのかその真面目さが空回りし、任務を通常のノルマ以上にこなそうとする。そのせいでいわゆる残業というのをアイラは毎日していた。そのせいで、当然疲れは取れず溜まって行く一方。それを当然見抜いていた魔王は、こういう形で休暇を取った。


  そしてうつ伏せになって倒れている、だが傷は1つもついていないアイラをお姫様抱っこをし、部屋まで運ぼうとしたら、すぐ後ろにはブラッディとシャリーが既に立っていた。


  「お前らいつの間に?!」

  「魔王様って……ツンデレなんですね?」

  「ちゃうわい!」


  ブラッディはともかくシャリーまでもがニヤニヤしていた。魔王城は今日もにぎやかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る