第7話 生徒会長と副会長

 優星が倒れ意識を失っている間、沙月は保健室で彼を看取っていた。時間はもうとっくに下校時刻を過ぎていて、教諭も用務員以外は皆ほとんど帰宅している。静寂に包まれた学校は昼間と違い、やはりどこか不気味だった。

 すると、保健室の扉が開けられ、一人の女生徒が入ってきた。


「彼の様子はどう?」

「あ…今はなんとか…だいぶ落ち着いたみたいです」

「そう、よかった…」


 柔らかな亜麻色の髪を揺らして入ってきた少女は、ホッとした表情で、沙月の隣に立った。


「…愛美さん…」

「どうしたの? 沙月ちゃん」


 "愛美"と呼ばれた少女は、まるで妹をあやすような目で沙月を見ていた。どこか動揺している彼女に対し、常に優しく答える。


「さっき…飢幸餓が襲撃してきた時に発せられた光は、愛美さん…ですか…?」

「…いいえ、違うわ。私が飢幸餓の反応を察したのは、本当についさっき。屋上に駆けつける2分35秒前よ」

「…じゃあ…」


 沙月が視線を落とすと、愛美も真剣な表情になり、目の前でベッドに横たわっている優星を見つめる。


「…この彼しか、考えられないわね…」

「でも彼は、ごく普通の"地星人"のはずですよね…!? 」

「沙月ちゃん、落ち着いて。それを今から確認するのよ」


 そう言って愛美は、左耳に着けていたイヤーフックを外す。それを指に軽く掛けると、みるみるうちに大きくなり、持ち手の付いたペンデュラムへと変化した。

 そしてゆっくりと、ダウジングをするために優星の上にかざした。


「これで反応すれば、彼が"持っている"ことになるわ…そうでないことを祈るしかないけど…」

「………っ」


 愛美は、優星の足元から胸へとペンデュラムを揺らさないよう動かす。その間、見守る二人に張り詰めた空気が漂う。

 …が、その緊張感は、ある人物が部屋に入ってきたことで見事に消え去った。


「あっいちゃーん! 何してんの~?」

「「………………」」

「…あれ?」

「樹…どうしてあなたはそうやって空気を読まないの…っ」

「え? あれ?…あ、あはは…ごめん…」

「樹さん…」


 保健室に嬉々として入ってきたのは、愛美と共に生徒会に入り、副会長に就任した鈴銅樹。いつものことなのか、彼のあまりの空気の読めなさに、沙月までもが呆れていた。

 しかし樹は、すぐに真剣な眼差しで、ベッドに横たわっている優星を見据えた。


「…そこに寝ている彼が、例の光の発生源ってことかい…?」

「おそらく…ね。これからそれを調べようとしていたところよ…誰かさんのせいで中断しちゃったけど」

「あぁあごめんよ愛美! 悪気は無いんだ!」


 愛美は笑顔で話しているが、どことなく言葉に棘があった。樹は再び、手を合わせて謝った。そして、顔を上げるなり、ウインクしながら提案した。


「…それより、もっと簡単な調べ方があるでしょ? 愛ちゃん♪」

「…そう言うからには、あなたがやってくれるのよね? 樹くん?」

「もちろん。君に何かあったら、たまったもんじゃないからね」

「…わかった。頼んだわよ」


 愛美はしぶしぶ了承し、一歩下がった。彼女の代わりに樹が優星に近づく。


「すまないね…君の人生を変えてしまうかもしれないけど…」


 樹は未だ目覚めない優星に向かい、そう呟くと、右手を彼の額にかざした。すると、樹の掌から光が発せられ、細い光線が優星の額を貫いた。ほんの一瞬、優星の体が軽く跳ねたが、それでも彼はまだ目覚めそうにない。

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