#3-3 彼女も監督たちと同類だった

 ドンッ!!!と大きな音で目を覚ました。それは扉を開ける音だったようだが、目覚めるには最悪である。


 昨日はオリジンのことを聞いた後、呼んだばかりで疲れている体にはもう知識は入らないと言われ、その日は終わった。


 そして部屋に案内されベッドに倒れ込むと一瞬で眠りに落ちた。いつも出社時間に

合わせて体が起き上がるのだが、今日はそれが全くできなかったらしい。これじゃあ遅刻、社会人として失格である。だがもう遅刻というのは無くなってしまった。理不尽な呼び出し、何やら人側ではない方の味方、しかもおっかない存在らしい『オリジン』の一柱という存在。

 

 そのオリジンこと『アーク・ヘル』が昨日僕をいたぶった時と同じ表情で見下ろしてた。


 「まだ寝ているつもりでしょうか」

 「い、いえ。もう起きました」

 「そうですか。ならこれに早く着替えてください。サピエンスの一生は短いのですから無駄にできません」

 

 渡されたのは動きやすそうな服であり、どこかスポーツウェアを思わせるものだった。サイズも丁度良さそうであり、「今から運動するぞ!!」って気分になれそうだ。


 ささっと着替えを済ませ廊下に出ると同じような服装のアークさんが腕を組みながら待っていた。今更ながらだが、彼女はスタイルが良い。昨日はドレス姿で、しかも結構着込んでいたらしく体のラインが分からなかった。


 しかし今そんなことを思っている訳にはいかない雰囲気がした。


 「今日からさっそくレイを鍛えます。まずは私の拳を避けながら反撃して下さいね。あ、力の加減は不要です」

 「え?ちょっ」

 「では始めます」


 その瞬間目の前が真っ暗になった。


 




 

 「……さい。起きて下さい」

 「う……あれ、ここは」  

 

 目を覚ますと何故か外にいた。ここに呼び出されて初めての外だが、地球と同じように陽が出ていて暖かい。でも何で外にいるのだろうか。さっき廊下に出てアークさんと話して……あれ、記憶無いんですけど。


 「意外でした。まさか簡単に気絶するとは……しかし検証その1は達成できました」

 「気絶!? いつの間に気絶してたんですか!?」

 「廊下でじゃれあい程度をやろうと腕を突き出したらレイが避けないので当たってしまいました。何やってるんですか、しっかり避けて下さい。次はできますよね?」

 

 首を傾け骨を鳴らし、さらに両腕をグッと前に伸ばして骨を鳴らし、準備できましたと言わんばかりににじり寄ってきた。


 怖い。眼の輝きが消えてる。昨日あれ程引き込まれた眼の色がまるで違うように見える。これは完全に暗黒面に落ち切った眼の色だ。


 「少し時間を! というよりももっと違うやり方が」

 「できないんですか? いえそんな訳ありませんよね。レイならできます。というよりもやるんです。ほら早く」

 「ひっ……」 


 あまりの圧に思わず一歩後ずさると、アークさんは冷たい表情で微笑んだ。ふふっと上品にだ。でも全然違う……僕が知ってる微笑みはこんな人をすくみ上らしたりしない!


 「逃げてもいいですが……追いかけます。どこまでも……レイがどんな所に向かおうとも」


 すると目の前まで来ていたアークさんが消えた。あまりに自然に消えたせいか、今までのやり取りは夢で今目覚めたのではないかと思う程だ。というより今目覚めたんだ、そうに違いない。


 嫌な汗出たよと深く息を吐く。その時だった。

 



 「私 は あ な た の 近 く に い ま す か ら」




 耳元でそれが聞こえた時、心臓が止まると思いました。


 それから訓練が始まった。ワンパンで気絶、突如くる脅しで気絶とで一日で何度記憶が飛んだか分からない。何よりキツイのは「できますよね?」の言葉だった。

これは仕事でよく無理難題を言ってくる監督が使っていた言葉だった。どれ程そのエフェクトや作り物に時間が掛かるのかを知らずに簡単だろという感じで言ってくる人たちがいた。

 

 一応提案する。それ時間掛かるのでスケジュール危なくなると。しかし決まって言うのである。


 「面白くなるから。できますよね?」


 アークさんの言葉はそれと酷似していた。しかも一部雰囲気までもがだ。まさか帰れずともある意味仕事と同じプレッシャーを味わうとは思ってもいなかった。まだ一日そこらしか経っていないが。


 「大体わかりました。検証その2も達成です」

 「それは……良かったです」


 そして今日も心身ともに追い詰められ、現在四つん這い状態である。最後の一撃は俗に言う喧嘩キックだ。こんなの喧嘩漫画でした見たことが無かったが、やられるとその威力にこの星の大地にキスしてしまったほどだ。しかも1分ぐらい。


 こういった荒事はまるで経験が無いが、これだけはわかる。アークさんには何があっても勝てない。救世主が強くなるらしいことを言っていたが、それでも届かない。


 「レイはどうやら肉体を強くする、何かを召喚するといったものではないですね」

 「何ですかその羨ましいのは……じゃあ僕のは?」

 「まるでわかりません。それが検証その2でわかったことです。つまりレイは今のところ使えません」


 キッパリと言った。どうしよう、もしかして期待に添えられなかったから灰にされるのだろうか。それともワンパンで破裂させられるのだろうか。


 そのビジョンが頭に浮かび上がった時、アークさんに肩をトントン叩かれた。


 「でもそれは未知ということ。大丈夫、あなたが思ってるようなことはしない」


 紅茶を飲んでいた時とは違う雰囲気の微笑み。今までのことがまるで夢だった様に

思えてくる。これがアメとムチか……


 「どんなに曲がっても、どんなに千切れてもすぐに治しますから」


 どうやらアメでもムチでもなく、鉄球にベトコンスパイクだったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る