・下巻「破戒神魔ゴッデビロン対人脳機兵バイドロン」

「フハハハハ!貴様を滅ぼし、この世界も滅ぼし、次の世界も滅ぼす。我々に耽溺する愚かな者共の愛する物語を全て抹消する。その後現実世界に出現し命も奪ってやってもいいが、やはり、あらゆる物語世界を破壊し、ロボットものがなければたまらぬ者共からそれを奪いつくし、絶望させるほうがより面白い!全てのロボットものの世界を破壊し根絶する!物語を、我らロボットを粗略に扱う報いを、物語を貪る者に受けさせるのだ!それこそが我が望みなり……死ねぃっ!」


 ゴッデビロンが片腕をあげた。Vリーナを取り囲む怨霊ロボット軍団が、一斉に攻撃体勢を取る。


 絶体絶命……!?


 そう思われた前回末尾の映像を冒頭再使用した、その時!


 BLATATATATATATATATA!


 ZDON!DGAM!BTOOOOOOOM!


「何だ!?」


 突然の銃砲撃が、怨霊ロボット軍団を次々と薙ぎ倒す!Vリーナを撃つどころではなくなり回避し反撃しようとする怨霊ロボット軍団だが、次々と撃破されていく!驚愕するゴッデビロン。それを行ったのは!


「ツァレヴィチッ!」「助ける!」「いくぞ、皆!」「応っ!」

「バカな!?」


 ……バイドロンに乗った子供達だ!小さな機体でビルの影を縫いながらの奇襲攻撃!驚愕するゴッデビロン。何故なら。


「な、何故だ!?残骸を怨霊が動かしているとはいえ、敗北しバッドエンドを迎えたものや打ち切られた作品とはいえ皆主役級のロボットだぞ!?あんなリアルな、パワードスーツに毛が生えたような量産型のがらくたの、20mmあるかどうかの口径の豆鉄砲ごときに!?」


 数十m級の機体も多い怨霊ロボット軍団が、まるで泥人形かなにかのように、自分達の世界すら守れず滅ぼされる筈だったバイドロンに駆逐されていくのだ。ゴッデビロンは自分のカメラとレーダーが一瞬信じられなかった。


「……その答えは、君自身が言ったじゃないか」

「何……!?何だ、あの力は!?」


 その隙に、Vリーナが立ち上がった。それもまた信じられない事だった。驚愕し、問い、そしてゴッデビロンは見た。


「負けないで!」「スーパーロボットなんでしょ!」「かっこよかったんだから、好きだから、負けないで!」「ツァレヴィチ!Vリーナ!がんばれっ!」「僕たちも頑張る、だから!」


 たどたどしく、だが熱く、口々にツァレヴィチとVリーナを応援しながら戦うバイドロンとそのパイロットの少年少女。その全身から、Vリーナと同じ魔法のエネルギーがほとばしり、彼ら彼女らを強化し、そしてVリーナまで強化しているのだ!


「奇跡を起こす為の力は、元々リアルロボットに英雄性を与える為のものだった、って、君がそう言っただろう。本来あの子達こそが……この世界の主役だったんだ」

「バカな!バッドエンドに陥った世界に、こんなご都合主義をもたらす力などある筈がない!?」


 ゴッデビロンの言葉の角をツァレヴィチが掴んだ。呪詛返しの言葉が、ゴッデビロンを狼狽させる。痛め付けられた女の目が、今再び童話の王子の輝きを宿し始めていた。童話のページを捲る手という名の鞴が、期待と言う名の酸素を送ってこそ、物語の炎は燃えるのだ。


「この物語は、もう、変わった。『42S.A.I.42』が居なくなった時点で、もう、バッドエンドじゃないよ。だから奇跡は起きうる。例え連載が中断された物語でも、読者の心の中とかでは、こうなっていただろうとか、ああなっていただろうかと続いたりするように……バッドエンドだって、救いがあればという祈りから生まれる二次創作やそれに影響を受けた新しい物語が生まれたりするように……」


 ツァレヴィチがVリーナを立ち上がらせる。Vリーナが立ち上がる。物語外の理を体現する、物語の登場人物にとっては死の化身の如き存在となった禍津神に立ち向かう。二重の意味で人の造った神として立ちはだかる。人間が作り上げる存在としての巨大ロボット、人の手になる神として。様々な問題を知った上でそれでも尚物語を解決する神としての巨大ロボットを求め、そして、その神と合一し神を動かすのは人の技と心であれと願う、人の祈りの化身として。


「人間だってそれを操縦すれば神様みたいに世界を救う事ができる!それが!巨大ロボットだから!だから、負けない!」

「お、おのれぇええっ!!」


 その理を、ツァレヴィチを名乗る少女は高らかと宣言した。

 その前に立ちはだかる怪物は吠えた。


「お姉ちゃん!」


 子供達が叫んだ。その時には既に、ゴッデビロンの狼狽の間に怨霊ロボット軍団はことごとく撃破されていた。ならば後は、激突を以て決着とするのみ。


「神魔破戒波!!!」


 ゴッデビロンの胸の前で拳を打ち合わせた両腕から、消滅の波動が迸った。


【幸いを呼べ、終演の剣】クォデネンツ・シスリーヴカニェッツ!!」


 ……それを、光輝くVリーナの剣が、切り払った!波動のその先、ゴッデビロンの機体もろとも!!


「ぐわあああああああっ!!?」


 切り裂かれた胴体の傷口から小爆発を連続させ、よろめくゴッデビロン。その機体の中では、機体と融合し自我を消失し俯くそのパイロットが、どこか称えるような微笑みを口許に浮かべていた。


 ツァレヴィチという名を仮面とした、かつてどこかでヒロインだった少女は、己が求めた人と限りなく近い存在をその手にかける悲しみに、しかし負けるわけにはいかない誓いを食い縛った表情でそれを見送って。


 そして、幾度かの小爆発が大爆発へと繋がる直前……


「こ、今回は貴様の勝ち、ハッピーエンドだ、だが……! この世にバッドエンドを迎えるロボットアニメがある限り私は不滅だ……そして、ぞんざいに連載を中断されるロボものライトノベルの恨みがある限り……私は必ず帰ってくるぞおおお!!!」


 そうゴッデビロンは叫び、そして……大爆発四散!!!


「……なんて押し付けがましいくらいに教訓的な断末魔なんだ……」


 爆煙にツァレヴィチは流石に思わずそう呟き、そして戦いは終わった。



 ここからはこの小説の構造OVAのノベライズという設定的に、短く終わりを迎える事になるのだが。


「あいつは、僕が探してる人とは似て非なる人だった。それなら……まだ旅は続けられる。あいつは終わらない物語を憎んでいたけど、同時に、悲惨な結末も恨んでいたように……続きがあるのも、悪くないしね」


 疲労し負傷したツァレヴィチの身を案じる人々に、彼女はそう答えた。避難所から駆け出してきた、彼女が救い世界のあちこちからかき集めた様々な人々。


 『42S.A.I.42』が停止した以上、大変でがあろうが、世界をもう一度始めるには不可能ではないだろう人数の人たちに囲まれて。


「気にする事はないよ。こう、世界の外からみればその世界は物語に見える、ってだけさ。世界が生まれる過程も、成立が先で観測は後。それこそ、あいつが現実世界と呼んでいた場所だって、よそから物語として観測されてるかもしれないし」


 そして、あの戦いを知る少年少女達が、世界が物語であるという恐るべき真実について訪ねられては、そう答えた。


 そしてまた。


「世界を渡る奴も、僕もあいつもそうだったように幾らかいる。僕みたいに単独で渡ってる奴も、集団で渡ってる奴も。いつまでも旅できる奴もいれば、道半ばで倒れる奴らもいるし、目的を成し遂げて旅を止める奴もいれば、一定の条件……例えば一度きりとか、例えば往復だけどか、例えば夢の中の世界だけとか……なら渡れるって奴もいる。ある意味、それもまた他の人からみれば物語や夢だけど」


 とも言った上で。


「けど。……流石に疲れたからね。しばらくはここに残るよ。僕にもVリーナにも、まだ出来る事もあるしね」


 ここまでの流れを、エンディングテーマソングと小さくなった画像の横に黒ベタ背景に白文字でスタッフロールが流れる中言った上で……


 最後に、開墾された土地のとなりにVリーナが待機する中、あの不思議なテレビでロボットアニメを見て笑うツァレヴィチと少年少女達の一枚絵が映し出されて。


 この世界がこの物語で描写されるのは、一先ずここまで。

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