人脳機兵バイドロン対英勇閃奏Vリーナ対破戒神魔ゴッデビロン

博元 裕央

本編

・上巻「人脳騎兵バイドロン対英勇閃奏Vリーナ」

 腐った灰色のコンクリートの山の上を、鉄の野猿が何匹か跳び渡っている。


 かつて文明を極め栄華を誇った大都市の残骸の中を撤退していく人型機動兵器群は遠くから見ればそう見えた。


 人型機動兵器といっても、かつては大都市だったとはいえ今では廃墟と化したビル群と比べ、ビルが廃墟となっているにも関わらず尚、それは酷く貧相だった。機械で作った猿の手足を移植された3mのドラム缶。簡潔に比喩を用いると、そういったような機械だ。


 廃墟の町と貧相な兵器。


 そのどちらもが、人を全ての面で上回る知性、特異点級超人電脳Singularity Artificial Intelligence42S.A.I.42』が、人類を滅ぼすことを決めた結果だった。


 『42S.A.I.42』は、あらゆるコンピュータを支配した。その結果、至極あっけなく人類文明は崩壊した。自滅する人類を『42S.A.I.42』が操る超電脳戦闘ドローンが狩った。それに対抗しうる兵器を産み出そうとした人類が作る事ができたのは、コンピューターの代わりに人間の脳を接続して使用するバイオテクノロジーを併用した兵器。人の脳で操る為に人の姿を真似た機械、戦闘用ドローンでありながら人間の搭乗を必要とする欠陥兵器。人脳機兵バイドロン。


 だが、いや、そして。その儚い抵抗は、太陽が東から上るのと同じ必然の真理の如く、至極あっけなく終わりを告げようとしていた。


「どういうことだ、どういうことだ!?」「そんな、そんなバカな!最初から『42S.A.I.42』の掌の上だったのか!?」


 司令部に隠れ住む高級軍人や政治指導者や科学者達の混乱の叫びが、通信機を通じてバイドロン各機の機体内に木霊した。


 あまねく全てのコンピューターに遍在する『42S.A.I.42』を倒す最後の手段と人類が信じていた、『42S.A.I.42』と接続するその一世代前の巨人電脳『41』とその内部に存在する特殊コンピュータウィルス。


 それを起動すべく人類最後の攻撃を行ったバイドロンの軍隊は、至極あっけなく99%が殲滅された。


「ひ、ぎゃっっ!!?」


 今も、また一機。あらゆる誘導兵器は乗っ取られる為これしか武器がない旧式機関砲を振り回して抵抗していたが、追いすがり飛行する戦闘ドローンに全てかわされ、逆に撃ち抜かれた。手足に仕込まれたローラータイヤとワイヤーアンカーを用い正に野猿の様にビルとビルを跳び渡る機動性を持つバイドロンだったが、自由自在に飛行する昆虫じみた戦闘ドローンに、その性能では明らかに劣っていた。


 当たり前だ。人間の脳が動かす為に人型にせざるを得なかった機械が、人間の頭脳を全ての面で上回る超人電脳が操る、その超人電脳によって最適化設計された機械に勝てる筈が無い。銃で撃たれたジュース缶の様に、血と火花を撒き散らして一機のバイドロンが墜ちる。


「うわぁあああっあばっ!?」

「こ、ここも発見されていたの、がぎゃあああっ!?」

「ひ、ひいいっ!助けてくれぇ助けてくれぇえ!家畜でもいいから!ば、バイドロンを差し向けた事を怒るなら奴等は好きにしてくれていい!命だけわばああっ!!?」


 そしてそれは、作戦段階においても然り。人類が話の作戦は全て読まれていた。敵の弱点は存在しなかった。弄ばれた様に、司令部も今壊滅した。


 そして。


「ああ、追い付かれた……」

「もう、終わり、だね」


 最後に残った数機のバイドロンが、止まった。ビルとビルとを跳び写り擬似的に三次元機動を行う事で何とかここまで逃げてきたが、ここで、ビル群が途切れたのだ。


 割れたコンクリートの道を、ローラーレッグで走り逃げる。それでは、容易くロックオンされてしまう。


 事実、二秒で軍用ドローンがバイドロン達を包囲した。パイロット達は、諦めの声を漏らした。


 子供の声音で。


 そう、バイドロンのパイロットは子供達だった。絶対的な『42S.A.I.42』の優勢は、あっという間に人類から人倫という余裕を奪っていた。


 そして、子供の声音とは思えないほどの、絶望の色があった。


 絶対的な『42S.A.I.42』の優勢は、既に子供達から希望を奪っていた。


 只管に苦しんできた。ばたばたと死んできた。死ぬのが怖いだけで生きてきた。


 でも、それもこれで終わり、と、ある意味、奇妙な安堵感すら覚えた程だった。


 そして銃弾が放たれ、物語は終わる。


 本来はその筈だった。その流れが、編かする。


【火の鳥】ジャール・プチーツァよ!」


 KYUGO!DOM!DOMDOM!


「えっ……!?」

「何……」


 まだ生きているのに死んだ様な瞳で、死を受け入れようとしていた少年少女の目が瞬いた。迫り来る銃弾が蒸発した。追撃するドローンが焼き尽くされた。追い詰められた自分達の背後から放たれた、鳥の形をして飛ぶ炎、科学的にはあり得ない力で。


 少年少女は振り向いた。そこに、居たのは。


 魔方陣があった。鉄と炎と煙で噎せ返り窒息する世界を切り裂く光の魔方陣。その中から現れた、3m少々のバイドロンより遥かに大きな、真に英雄的で偉大な金属の巨人であった。


 分厚い胸板、逞しい肩。すらりと長い手足。腰は蜂の様に細いが、引き締まった細さだ。何処も彼処も鋭く尖っていて、トリコロールに黄金のエッジとエングレーヴを配した全身鎧を纏い抽象的で幾何学的なフルフェイスヘルムを被りバイザーを下ろした人狼の如き野性的な騎士とでも言う様な峻厳な美を持っていた。


「助けに来たぞ、子供達!こっから先は、英雄叙事詩の時間だよっ!」


 優しげな少年とも凛々しい少女とも取れる声が響き渡った。大きく見栄を切りながら、巨大な英雄は身を翻した。肩と背中から炎のマントが吹き上がり、右手に鏃の様に鋭い結晶質の剣が、左手の装甲が展開し弓或いは弓の様な盾というような装備が形成された。


「英勇閃奏!Vリーナ!物語!開始!」


 どこからか、機械の作動音のような音が響く中、突如現れた綺羅なる巨人はそう堂々の名乗りを上げた。


「た、助け、って」

「お、おいおい。もうちょっとこう……反応ってもんがさ……」


 ……だが、唐突すぎて、喜ぶ所か戸惑いしかない子供達で。ちょっとショックを受ける〈Vリーナ〉。


「……つ、次の部隊、来たよっ!!」


 VOOOOOOOOOOOO……NNNN……!!


 しかし、続く奇襲には辛うじて反応できた。即座に、周囲の戦闘ドローンが集結してきたのだ。人間を入れる必要のあったバイドロンよりコンパクトで全長2m程、数十mはあろうかという大きなVリーナでは大きすぎて寧ろ人間が雀蜂にたかられるようにしてやられてしまうのでは、とすら思える。戦闘ドローンは、それほどの数だったのだ。


 だが。


「大丈夫!まかせて!」


 前後左右上空全てから包囲して、ミサイルを放とうとする戦闘ドローンに、Vリーナはただ弓を構えた。


【雷の矢】ペルーンよ!」


 放たれた雷の矢は、あまりにも圧倒的だった。全方位を飛び回り、その場に存在した戦闘ドローン全てを、Vリーナの周りを数百周するようにして全て一瞬で射抜いたのだ!


「……へへっ!ハッピー、エンドッ!」


 爆煙の中から無傷で現れ、Vサインを少年少女に送ったVリーナだったが……



 数十分後。


「うううーうー…………」

「えと、あの」

「ごめんて……」


 胴体をぱっかり開いて手足を折り畳んだ数機のバイドロンと、叙任を待つ騎士の様に片膝をついて停止するVリーナの囲む空間で。


 ぼろぼろの野戦服を着た数人の少年少女が暗く淀んだ素の表情の上にあきれ混じりの動揺を張り付けて取り囲む中、ペンダントや肩章を思わせる装飾とも装備とも回路とも魔方陣とも取れる模様の刻まれたボディスーツを来てマントを羽織った、機体から聞こえてきた声音どおりボーイッシュな少女とも美しい少年とも見える桃色の髪のパイロットが涙目で呻いていた。大泣きするのをその直前で堪えている子供の様なというか、それそのものの表情で。


「えと、ツァレヴィチ、で、あってるんだよな、名前。し、知らないって言って悪かったよ、その、すーぱーろぼっと?とかいう奴。何か、そんな、ショック受ける程とは……」


 ……少年兵が語るとおり、戦闘後、改めて彼?彼女?は、自分の名前をツァレヴィチであると名乗り、この世界を救いに現れた正義のマジカル・スーパーロボットであるVリーナのパイロットだと名乗ったのだが、それに少年兵達が、すこぶる低調な反応を示しただけで、この有り様である。ほんの少し前に戦闘ドローンを一方的に殲滅した圧倒的な強さは一体何だったんだろうかという豆腐メンタル……


「そっちじゃないよ!?そっちもあるけどメインじゃないよ!」

「一応そっちもあるのかよ」


 だが、それをツァレヴィチはある程度否定した。ある程度しか否定しなかった事に突っ込まれはしたが。


「酷いよ、酷いよ。助けてくれなくてよかった、なんて。あのまま死んでればもう苦しくなかったのに、なんて」


「え、いや、それは……」

「だって……え?そう思わない?」


 しかし、次の吐露したツァレヴィチの言葉は……この世界の悲劇を、より強烈に浮き彫りにする事になった。


 そしてそれは。


「……そう思わない!滅びるしかないなんて事、無い!」


 ツァレヴィチを、奮起させた。さっき泣いたカラスがもう笑った、というよりは、カラスが脱皮して竜に成ったようだった。ぐいっと涙をぬぐった顔には、炎の様な熱い輝きがあった。


(何。なんだろう、この、この表情の、意味は)


 それを見て、バイドロンパイロットの一人は、一瞬、自分でも分からない感情に襲われた。


「確かに、僕が見てきた中で、ここはトップクラスにヤバい世界だ。けど、安心して。まだこの世界には、それなりの数の人と物資が生き残ってる。ここから人類を復興させる事は可能だ、って、【灰色狼】モーグリン・ヴォールクが言ってる」

【灰色狼】モーグリン・ヴォールク?」

「僕の機体、Vリーナの制御精霊。この世界でいうAIみたいなのだけど、安心して。『42S.A.I.42』みたいな、人間の心から離れちゃった奴じゃないから」


 一瞬ぎょっとする子供達に、大丈夫大丈夫とツァレヴィチは手まねをして。


【灰色狼】モーグリン・ヴォールク【生命の水】ズーズナヤ・ヴァダーを!」


 と、ウェイターに注文をするように叫んだ。


「ダー、ツァレヴィチ」


 するとVリーナから魔法使いの老婆を思わせる声で返事があり、次の瞬間。


「わあ……!?」


 胸部にあるVリーナのコクピットハッチから水が噴出したと思ったら、それがあるものは地面を走りあるものは霧となって走り……


「ちょっとした避難所なら。こんなとこかな。水の結界……地面に模様を作ってる水は触っちゃダメだよ。戦闘ドローンや『42S.A.I.42』から君達を隠す効果があるから」


「わ、わかった。わかったけど、これ!?」

【生命の水】ズーズナヤ・ヴァダーは癒しの水の魔法。その、〈癒し方の定義〉をうまくあれこれすれば、こういう応用も出来るって訳」


 結界に囲まれた空間に、一瞬で産み出されたのは様々な食料と飲料、それと、快適に過ごす為の様々な家具だった。


「食べて、いいの?」

「いいよぉ!勿論飲んでもOKさ!」


 疲労困憊していた少年少女が、驚いて呟き。それにツァレヴィチは、こう、びしっとした強さとにぱっとした柔らかさのある笑いを浮かべて自信満々頷いた。


 心が絶望していても、体はまだ命を求める。最初は恐る恐る、一口の後はわっと貪る子供達は、食べながら口々に質問をしてきた。


「魔法使い、なの?」

「まあ似たようなもんかな。本業は、魔法の正義のスーパーロボットパイロットで、趣味で王子様をしてる」

「何それ、何それ?」

「ん、分かった。説明してあげよう。その為に、TVが2台あるんだ」


 子供達はどっちかというと、趣味で王子様をしている、という方を聞きたかったのかもしれないが、ツァレヴィチが説明したのは前者の正義のスーパーロボットパイロットのほうだった。


 片方のテレビを弄くるとスイッチを入れる。すると、そこに映し出されたのは。


「超電導マグネスクリューーーッ!! 超電導、フリーズドリールッ!」

「これ、何?……貴方の機体に似てる、貴方の仲間?でも、これ……」

「スーパーロボットさ。アニメだけどね。仲間っていうか同類さ」


 そこに映し出されたのは、様々なスーパーロボットを扱ったロボットアニメだった。そこではたった今叫ばれた技名のように、様々なスーパーロボットが、先程戦闘ドローンを一掃したVリーナのように、きらびやかな機体を躍動させ派手な必殺技で人々を守り敵を倒していた。


「……こんなの……」


 それを見て一人の子供が、暗い表情で自分達の機体を見た。苦し紛れの手段。これまで散々に破壊されてきた、仲間達の棺桶。人型の機体が勝つなんて嘘臭い。とでも言う様に。


「あれを見ろ!少年!!」

「いてっ!?」


 その子の顔に頬を寄せるようにして、ツァレヴィチは少年の顔を別の方向に向けさせた。ちょっと無理矢理で、少年は痛いと文句をいったが。


 その先にあったのは、先ほど少年達を救ったVリーナ。


「あ……」

「へへっ。まー、一度っきりじゃーピンと来ないよね。うん、分かる分かる、その為にTVが2台あるんだ」


 気づきとツァレヴィチへのすまなさの入り交じった表情を浮かべた少年に、にかっと笑ってそう言うと、ツァレヴィチはもう片方のTVをいじって斜め45度から叩いた後、こういった。

「こっちのTVには、僕が映る。これから、僕はあちこちにいる人を助けて、『42S.A.I.42』をやっつける。他のロボットアニメと一緒に、ま、見てて頂戴」


 そういって胸を張るが……やはり、本当にそんな事が出来るのか?という、猜疑の冷たい空気はまだ払拭しきれてはいなかった。ツァレヴィチはちょっとがっくりきた、というのを大袈裟なボディランゲージで表現すると、立ち直ったよ!気にしないよ!というのを、これまた大袈裟なボディランゲージで表現して。


「ま、百聞は一見にしかずだ!見ててよ!」


 というと、たっ、とVリーナ目掛けて駆け出した。コクピットハッチから、今度は水ではなく光が迸り、ツァレヴィチは浮かび上がるとコクピットに吸い込まれた。そしてVリーナは、先ほど発射した【火の鳥】ジャール・プチーツァのそれに似た炎の翼を背中から展開し、飛行発進し……


 その後を、子供達はTV越しに目撃する事になる。



【雷の矢】ペルーンよ!」


 再び、雲霞の如き戦闘ドローン軍団を、雷の矢で纏めて射貫き、別のバイドロン部隊を救出する所を。



【幸いを呼べ、終演の剣】クォデネンツ・シスリーヴカニェッツ!」


 バイオテクノロジーのみで維持される、荒廃した世界から守られたバイオスフィア・アーコロジー。既に大半が破壊され、残りの最後の一つに襲い掛かる、Vリーナより遥かに巨大な超大型バケットホイール・エクスカベーター型の『42S.A.I.42』の端末。


 それにVリーナは、既に射撃攻撃で撃破するにはバイオスフィア・アーコロジーに近すぎるとして、白兵戦を挑んだ。巨大な機械の回転爪牙を、その手に握る結晶剣で次々切り落とす。


 VAOOOOOO!!!!


【山の如き力】スヴャトゴル……!」


 掘削機構を失って尚、惜しむ命もない遠隔操作の機械は、その質量そのものを武器として突貫した。数百mの超巨体であるにも関わらず、戦車どころか高速鉄道並みかそれ以上の速度で!


 それをVリーナが……真っ向から受け止める!勇壮な意匠とはいえ、やや細身とすら見えるその機体で!機体装甲そのものが動力も兼ねるが如く、カラーリングの施された金属と樹脂の中間と見えるその表面が筋肉めいてパンプアップ!


 そして……


「出力、全開ぃっ!」


 投げ!飛ばす!自分より遥かに巨大な相手を!


 救われた人が、増えていく。テレビを通じて、繋がっていく。



「核攻撃なんてさせるもんか! 【火の鳥】ジャール・プチーツァ出力全開! 【灰色狼】モーグリン・ヴォールク、軌道を調整して!」


 更に空を超え海の上をVリーナは駆けた。目指すは僻地故に未だに人類が生き残っていた南洋の島々、それを襲おうとする『42S.A.I.42』が乗っ取った艦隊だ。


「ぐっ……流石に、本気、か!!」


 猛然と降り注ぐミサイルと無人戦闘機の群れ。空母を中心とする艦隊は、人口が残存する島々への核攻撃の準備を進めながら、それ以外の全火力を大遠距離からVリーナに投射した。


「くああっ!?」


 『42S.A.I.42』は人智を超えた超人電脳である。脅威としてVリーナを認識し、飽和する勢いで攻撃を加える。流石のVリーナも完全に阻まれ、ミサイルの乱打に叩きのめされる。どれ程の速度で飛ぼうがどれ程の迎撃力を持とうが、それでも逃げられない数の攻撃を叩きつければいいという非情な打算。更には、本来人類残存諸島を攻撃する予定であった核弾頭すら、照準を変更した。


「……へへっ……!」


 爆発の閃光に目を焼かれながらも。


 機体と身体感覚を魔法的に同調させて制御する、バイドロンとある意味似ているがより深い同調を行うが故に、軋むVリーナのダメージを痛覚として感じながらも。


 ツァレヴィチは、笑ってみせた。


 何故ならば、聞こえたからだ。


 TVを見て、自分の窮地に、悲嘆の声を漏らす少年少女の声が。あのテレビ、送受信が可能なのだ。


(もう一歩だ……!)


 本当に心底絶望してしまっている人間は悲嘆する事すら出来はしない。諦めてしまっているからだ。悲しみがよみがえったのならば、喜びや希望までは、あと一歩。


【雷の弓】ペルーンよ……【勝利者の屠竜槍】エゴーリィ・ポペドノーゼツよ!」


 故に苦しみを無視して英雄は走った。稲妻が、核弾頭をショートさせた。Vリーナの機体全長を上回る巨槍に変化した結晶剣が投ぜられ、空母甲板に着弾。


 光の柱が広がり、艦隊を飲み込んだ……!


「さあ、いくぞ『42S.A.I.42』。お前は、確かに、人より強い。どんな人の科学でも、お前には勝てないだろう。だけど……」


 艦隊壊滅の直後、ステルス戦略爆撃ドローンが飛来する気配を感じながら、Vリーナは【火の鳥】ジャール・プチーツァを最大限に展開して飛翔した。爆撃ドローンに上を取られる前に、空の上を目指す。【灰色狼】モーグリン・ヴォールクは告げる。『42S.A.I.42』は、既に衛星も支配している。だが不幸中の幸い、まだ衛星軌道より先には手を伸ばしてはいない。


「僕は奇跡だ、願いだ、祈りだ。人が欲して人が作った、人の為に良き奇跡を起こす鋼の神様だ!だから、お前には負けない!」


 大気圏外にVリーナを立たせ、ツァレヴィチは叫んだ。


 『42S.A.I.42』はあらゆる科学を支配し、人間の全ての思考を読む。物理法則下において人類型知性に抗う余地はない。仮により科学力が発展した人類に出会った場合でも、即座にその科学を理解し支配しただろう。


 純粋な物理法則下においては。


 そう。超人電脳はあくまで科学の産物であり物理法則を演算する存在だ。魔法や超能力は、その計算の条件には存在しない。故に……!


【大いなる祈り】ヴィリークラ・マリートヴァよ、戦いを終わらせよ!」


 故に、今この世界においては、ただVリーナのみが、『42S.A.I.42』を終わらせる事が可能なのだ。


 Vリーナの全身が、白い光を放った。それが、地球各地に降り注ぎ……


 あらゆるネットワークから、『42S.A.I.42』を完全に消去した。


「……やったよ。多分、そっちでも見えてると思う」


 そう言ってツァレヴィチとVリーナは、〈画面に向けて〉苦痛を堪えて笑い、親指を立ててみせた。


 TVの向こう、少年少女達の歓喜が爆発した。結界のすぐ外を子供達を探してうろついていた戦闘ドローン達が、一斉に糸の切れた操り人形と化して崩れ落ちたからだ。


 ツァレヴィチは、子供達の歓喜の叫びを聞いた。


 そして、激励の為の笑みではない笑みを、少しだけ浮かべた。



 だが、そこで物語は終わらなかった。


 その、直後!



 GYAKKIIIIINNNN!!!!



「んあっ!?、な……!?」


 何かが、Vリーナに直撃!衛星軌道上から落下するVリーナ!それでも咄嗟に体勢を建て直し、降下しながら、背後から直撃した何かを振り返り。


 そしてツァレヴィチは息を呑んだ。


 それは拳だ。空を飛ぶ拳だ。拳は、体に戻る。


 それはツァレヴィチとは真逆の姿をしていた。太い胴、太い手足。何れもシンプルな円筒状。しかし幾重にも分厚い装甲版を張り重ねたのが分かる重厚な金属塊。


 黒を基調に赤、白、黄金の線を刻んだ、極限まで幾何学的に抽象化した髑髏を思わせる顔をした、金属の魔王を思わせるスーパーロボット。


 そしてその背後に。血のような赤に怪しく輝く緑の線を幾重にも這わせた、巨大な禍々しい鬼めいた顔を備えた要塞が浮遊していた。その中から、無数の……動く屍の如き容器を漂わせた、あるものは朽ちあるものは部分的に壊れた、どれもこれも全く別々の世界観を持つ程にデザインの異なる、ただ、どこかVリーナや金属の魔王と同じくヒロイックなデザインである事のみは共通する巨大ロボット達が、次々と出撃してきていた。


「残念ながら英勇閃奏Vリーナ。これが終わりではないぞ」


 髑髏のスーパーロボットは、地獄が喋っているが如き声で宣言した。


「この破戒神魔ゴッデビロンこそが、終わりをもたらすのだ、全てにな!」


黒一面の背景に赤く荒々しく太いOVAのノベライズという設定なので筆文字で画面一杯にそれに類した感じの〆で)続く!!!

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