第39話 動き出す楽園の使者
そして突然…アールはエレンを後ろ手に庇い、俊敏な動きで何かを弾いた。
「アールっ!?」
「ちっ! 少しのんびりし過ぎた!」
突如飛んできたそれは、光で出来た円刃だった。アールをはじめ、エレンを囲むようにして各々の武器を構える。セーラは、絶対に離すまいとして、姉にしっかりと抱きついている。じっ…と様子を伺っていると、前方より一人の女性がヒールを鳴らしながらゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。その右手には、先ほどアールが弾き落としたものと同じ円刃が浮かんでいる。
それを視認したマーベラたちは、体を震わせ青ざめていた。
「…あら…ボスの命で侵入者の掃討と、"写し子ちゃん"を早く連れて来いって言われていたのだけど…マーベラにヘラスにエヴィ…あらあら、それにテムまで…仲良くそんなところで何をしているのかしら?」
「え、エイシャ…!!」
「一緒にいるのは写し子ちゃんと…ガーデンの制服が見えるんだけど、どういうことなのか説明してもらえるかしら!?」
「来るぞ!!」
エイシャと呼ばれた女性は、最初こそ猫なで声で話していたが、だんだんと語気を荒げ、怒りと狂気を混ぜた叫びと共に再び円刃をいくつも投げつけてきた。
アールの合図と共に、陣形を崩さないよう、防御に徹する。円刃の雨が激しさを増していく。そんな中防御に集中しながらも、アールは冷静に口を開いた。
「…マーベラ。彼女──…エイシャはどんな人物なんだ?」
「えっ…と…エデンの特攻戦闘部隊の隊長サマだよ…元々貴族の生まれらしいけど、類まれなる身体能力と魔力の高さから抜擢されたんだ。しかも彼女には、エデンから譲り受けている道具を身につけているから、物陰に隠れていようが、数メートル圏内は透視できる」
「なるほどな…避けて通れないってか…」
無数の円刃が降り注ぐ中、体力がじわじわと削られていく。とうとう、エイシャが先にしびれを切らし叫んだ。
「…いい加減に…写し子を渡しなさい!!」
「させませんわ!」
「!?」
アールたちの背後から突然、一本の剣が飛んできた。エイシャもそれに反応し、即座に弾き返す。弾かれた剣は、ある人物の手に収まった。
「ティアラ!?」
「ごめんなさい、遅くなりましたわ。エレン、彼女は
「そんな…!」
剣の持ち主はティアラだった。彼女は再び剣を構えながら、エレンたちの前へ出てエイシャと対峙する。凄まじい狂気を感じさせる相手にも引けを取らず、凛とした空気を放っていた。
「…ティアラ…あんたもガーデンにいたのね…」
「久しぶり、ですわね。エイシャ」
「あなたたち…知り合いだったの?」
「エイシャとは、家族絡みで深く縁を持った関係なのです。私たちは、血の繋がりはなくとも家族同然と言っても…」
「そんなの、夢みがちなあんたの妄想にすぎないわ! 現に、今こうして相対しているじゃない!」
「そうですわね…何故、こんなことになってしまったのか…」
寂しそうにティアラは眼を伏せながら、剣を握る手に力を入れる。そして、一度息を深く吐き、再びエイシャへ強い眼差しを向け、一喝した。
「だからこそ、ここで私自身がこの関係に決着をつけます! 大切な友人をこの先へ進めるためにも、私自身のためにも…」
「…ふん。やれるもんならやってごらんなさいな、お嬢様。結果は目に見えてるけどね…」
「やってみなくては…わかりませんわ」
「ティアラ…」
「皆さん、さあ早く! …エレン、一人でふさぎ込まないでくださいね。あなたには、みんながついてますから」
「…っありがとう…ティアラも、気を付けて!」
ティアラの誘導で、エレンたちは廊下を進んでいった。後に残されたエイシャとティアラは、静かに各々の武器を構え、その時を待っていた。
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