因子―IV
本来であれば、テキストファイルにはまだいくつかの記述が含まれている。しかし記述式感情共有言語、ELGOのプログラムが欠損しているのか、開くことが出来ない。
最後に書かれた言葉、「虐殺因子」……その単語を見たとき、私の中で何かが弾けたように思えた。
二〇五〇年以降の失われた記憶が、レプリカント・センターで私を見つめていたオーナーの瞳、その先の記憶が、パズルのピースのように繋がり出すような――。
〔駄目よ、今はまだ……〕
記憶の再修復はある声にかき消された。内部通信、しかしミラではない。テキストファイルにあったように、どこか懐かしく、哀しさや寂しさといった感情を想起させるような、これは……。
〔今はただ、そこから逃れる事だけを考えなさい〕
貴方は誰……この声は……誰が、どこから、一体、どうして……。
〔少しだけ、力を貸してあげる〕
声は途絶え、テキストファイルも欠損データごとコピーし、チップを手放した。砂に落ちたチップが少し沈み込むのを見ながら、私は跪いた。
Ax2の高鳴りを感じる。人間が脈動を覚えるように、私の中で何かが蠢いていく。感情が先走る。意識が染まりゆく。何かが喉を引っ掻いている。
「ファイ、どうしたんだよファイ!」
心配そうに駆け寄るミラをぎょろりと見て、私は震える両腕を抑えられなくなってしまった。
――私達には、虐殺を生み出す器官がある。
――野蛮な本能が無ければ、誰であれ人間にはなれない。
人類の大半は消えた。レプリカントが残った。残された私達は、同じく残された監視者によって弾圧される。
その現実を否定したいからなのか。
虐殺因子というモジュールを自ら検証しようとでも言うのか。
私は今、何をしているのだろうか。
私は今、どんな顔をしているだろうか。
私の両手は、ミラの首筋を強く、強く、絞めつけていた。
〔さあ、
To be continued in Sequence 2.
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