第111話 神王-03

俺達は修理が終わるまでの数日間、それなりに忙しく過ごした。

通信魔法を使ってオモさんと打ち合わせた結果、大量の補給物資を調達する事になったからだ。

種子や肥料はもちろん、繁殖用の動物や建築材料、有機無機素材の他に重機やプラントなども可能な限り調達したのだ。

もちろん、女性陣からの要請で大量の化粧品や生地も取り寄せている。

帝の私財や特務隊機密費を大量に供出させて購入したせいで、世界中のマーケットが混乱したが遠慮はしなかった。


あまりに大量だったので大規模集積場が必要になり、近衛隊工兵部隊を動員して天領の一部を急遽造成する必要があったほどだ。

造成程度なら魔法を使えばすぐなのだが、地星で大っぴらに使う訳にもいかないので止むを得ない。

近衛隊も超ホワイト待遇の朝廷公務員なので、残業代や各種手当が満額支給されるから不満は出ないだろう。


ちなみに俺自身が一番忙しかったのは2,500人分の土産の選定だ。

好みと合っていて、品物が被らず、値段も同じくらいというのは、かなり困難なミッションだった・・・


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「もしもし、コウかの?」

「あぁ、キューさんか。どうしたんだ?」

「修理が終わったんじゃ。」

「ありがとう。MET製造装置の方はどう?」

「そっちも順調じゃ。今日中には完成する見込みじゃ。」

「じゃあ、明日の午前便で集積場に配送だな。」

「しかし、肝心な部分は間に合うのかのう?わしの方で作っとる装置だけでは第二世代METは作れんじゃろ?」

「あぁ、大丈夫だよ。最後の仕上げのとこはもう準備できてるから。」

「それならいいんじゃが。」


最後の仕上げ、人機大戦の頃にキユ大佐達が命懸けで移送したコアパーツが行う処理は、スメラでは魔法アシスト製造法を用いるのが当たり前になっていた。

地星で日出国だけが第二世代METを独占的に製造できるのは、神代三家の魔法使い達が最後の仕上げを行っているからだ。

他国が魔法無しで曲がりなりにも第二世代METを作れるようになるには、少なくとも人機大戦の頃のスメラ星の科学技術レベルに到達する必要がある。


「じゃあ、明日の昼過ぎに挨拶に行くよ。装備品はついでに持って帰るから。」

「また海外出張かの?」

「そんなところだよ。今度からはちょくちょく帰って来られると思うけどね。」


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翌日の昼


キューさんへの挨拶のついでに都の蕎麦屋で昼食をとる事にした。

キッカは食べる必要が無いので、申し訳ないが外で待ってもらった。

野郎の一人飯の描写など、当然、カットだ。


「キッカ、お待たせ。」

「にしん蕎麦は如何でしたか?」

「やっぱり、いざ食べるとそれほど美味くはないんだよなぁ・・・」

「天下逸品北白川総本店の方が良かったのではないですか?」

「いや、どういうわけだか時々無性に食べたくなるんだよ。」

「不思議な料理ですね。」

「まったくだ。」


そんな他愛もない会話をしながら移動していると、やがて帝立研究所に着いた。


「キューさん、来たよ。」

「わざわざ挨拶に来るとはお主も大人になったのう。」


この人には言われたくない。


「頼まれておった装備はそこに置いてあるぞい。」

「やっぱり大変だった?」

「うむ。じゃが、なかなか面白かったぞい。」

「また夢中になって飯抜きとかしてそうだな・・・」

「安心せい。ちゃんとカロリーフレンドとポカエリアスを摂っとる。」

「相変わらずだな。飽きないの?」

「もう50年以上続けとるが、飯なんぞ栄養が摂れれば十分じゃ。」


まぁ、アレに比べりゃ極上の美食だが・・・


「あっ、そうだ!」

「どうしたんじゃ?」

「これも完全栄養食なんだけどさ、味も食感も最悪なんだ。キューさん、何とかできない?」


俺はポーチから非常用保存食を取り出し、キューさんに渡した。


「変わったパッケージじゃのう。どれ・・・」


俺が止める間もなく、キューさんは非常用保存食を口にした。


「うっ・・・」

「ちょっ、キューさん!大丈夫か!」

「うっ・・・うっ・・・」

「キッカ!救護班を!」

「は、はいっ!」

「うまい!!!」


俺とキッカはずっこけた。


「なに古典的なギャグかましてんだよ!」

「あぁ、儂はなんと愚かだったのじゃ・・・」

「ん?」

「世の中にこんな美味いものがあるとはのぉ・・・」

「は?何言ってんだ?」

「お主も酷い奴じゃのぉ。儂を騙しおって・・・こんなに美味いと知っておったらもっと味わっておったものを・・・」

「アレが・・・美味い・・・だと?」


天才ってのは味覚障害がデフォなのか?


「コウ!まだ持っておるじゃろ?残りを全部儂にくれっ!」

「あ、あぁ、まぁ、構わないけど・・・」

「ありがたい!」


俺は念の為に持ち歩いている非常用保存食をキューさんに差し出した。


『キッカ、これは・・・』

『この状態のキューさんは危険です。』

『そう・・・だな。上手く逃げないとな・・・』


「他には!他には無いのかっ!」

「う、うん。壊滅させた組織から押収したのはそれだけだよ。製造設備は完全に破壊したし・・・」

「何という勿体ない事を・・・」


キューさんは膝から崩れ落ちた。


「しょ、しょうがないだろ?敵の立て籠もってた施設ごとウルトラテルミットで溶かしちまったんだし。」

「まぁええわい。儂の今後の目標は決まったのじゃ!」

「ひょっとして・・・」

「このご馳走を再現してみせる!そして死ぬまで毎日食べ続けるのじゃっ!」

「えっと・・・他の研究は?」

「するわけなかろう?さぁ、もう帰っていいぞ。儂は忙しいんじゃ。」


こうなってはもう誰にも止められんのじゃ・・・


「キッカ、帰ろうか?」

「そうですね、何を言っても聞こえないでしょうし。」


俺達は置いてあった荷物を持って宇都宮へと戻った。

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