第99話 特訓-09
「よし、出来たな。」
目の前には大量の装甲板が並んでいた。
俺が魔法で加工したものだ。
『キット、直勘サブシステム追加の方はどうだ?』
『ちょうど最終調整が終ったところです。』
『じゃあ、ちょっと倉庫まで来てくれ。』
『はい、分かりました。』
場所的に近かったので、すぐにキットがやって来た。
「お待たせしました。どうしました?」
「あぁ、装甲板が出来たんだ。」
「お疲れ様です。搬出しますか?」
「その前にキットの装甲板を外してくれ。」
「えっ!」
「どうした?手伝おうか?」
「い、いえ、自分でできますから・・・」
カチャカチャ・・・コトン、カチャカチャ・・・コトン
外部装甲姿とは一転して、女性的なフォルムの内部装甲が現れた。
「は、外しました・・・」
「いや、内部装甲もだぞ?」
「え・・・えっ・・・えぇーーーっ!」
「本当にどうしたんだ?」
「何でも、何でもありません・・・」
カチャカチャ・・・コトン、カチャカチャ・・・コトン
「う、うぅ・・・」
「へぇ、こんな風になってるのか。」
デザインレビューでは内部装甲のCGからしか見ていなかったので、フレームを見るのは初めてだ。
間近で前後左右からじっくり見てみたが、なかなかシンプルかつ頑丈そうないい機体だ。
「あ、あの、一体何を・・・」
「いや、キットの中はどうなってるのか興味があったからな。へぇ、ここのフレームはこうなってんのか・・・」
直接触れて形を確かめた。
「ひゃっ!」
「あ、悪い。静電気でも走ったか?」
「い、いえ・・・ですが、その・・・もういいでしょうか?」
「ん?まぁ、構わないが、またその内じっくり見せてくれ。」
「は・・・はい・・・」
キットの様子が何だかおかしいな。
戦闘用アンドロイドだから、装甲板が無いと不安なのだろうか?
「じゃあ、キットの装甲はこれ・・・」
カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ
キットは物凄い勢いで装甲板を装着した。
「キット、やっぱりおかしいぞ?どうしたんだ?」
「な、何でもありませんっ!」
大事な相棒の様子がおかしいのに、放っておくわけにはいかない。
強権発動になるが止むを得ない。
「駄目だ。正直に言え。これは命令だ。」
「わ、笑わないでくれます・・・か?」
「当たり前だろ?」
「じ、実はその・・・自分でも意外だったのですが・・・」
「うん?」
「つい最近になって分かった事なのですが、わたしにとっては、外部装甲が服で、内部装甲が下着・・・と同じ感覚なようです・・・」
「へ?」
「ですから・・・先ほどは裸をジロジロと見られていたのと同じというか・・・うぅっ・・・」
キットが顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
厳つい漆黒のアダマント外部装甲を纏っているが、性別設定は女性なのだ。
知らぬ事とは言え、とんでもない事をしてしまった。
血の気が引いた俺は即座に土下座をした。
「すまん、キット!言い訳はしない!気が済むまでぶん殴ってくれ!」
「い、いえ、コウにそんな事できません。わたしも最近まで気付かなかったくらいですから・・・」
「いや!それじゃあ気が済まん!」
「分かりました。・・・・・・でしたら、スキンを作って下さい。」
土下座の体勢のまま顔を上げた。
「スキン?」
「オモさんやフジさんと同じ人工皮膚の事です。わたしは表情用アクチュエーターが無いので無表情になってしまいますし、外部装甲の追加工が必要になってしまいますが。」
「そんな事で許して貰えるのか?」
「そもそも恥ずかしかっただけで怒ってはいませんから。コウの気が済むように作ってもらうだけです。」
「任せておけ!魔法を総動員して完璧に仕上げてみせる!」
「楽しみです!」
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俺は必死に頑張った。
アンドロイド関連の情報インストールをしてもらっただけでなく、関連文献を読み漁り試行錯誤を繰り返した。
もちろん、思考加速した仮想頭脳を数千万起動しながらだ。
おかげで、アンドロイド造形技術の三皇と称されたカイ、ヨウ、ドウを圧倒する程の技術を習得する事ができた。
問題はデザインだった。
俺の理想を基にすると、間違いなくナホとそっくりになってしまうが、それはまずい。
色々と検討した結果、前線で鍛えられた叩き上げの美人小隊長といった顔立ちに決定した。
ちなみに見た目年齢は、キット本体が製造されて二十年なのでそれに合わせてある。
そしてキットへのささやかなプレゼントとして、リアルな表情も作り出せるようにした。
もちろん頭部パーツは大幅な設計変更が必要になったが、本気になった俺にとっては大した問題では無かった。
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そしてキット改修の日を迎えた。
もちろん、前回の反省を踏まえて組立やスキンの装着はオモさんに任せている。
扉が開き、二人が出て来た。
キットは見覚えのあるハーフトップとホットパンツ姿だ。
うっかり着替えを持ってくるのを忘れていたので、きっとフジさん用のストックをオモさんが出してくれたのだろう。
「閣下、お待たせしました。」
「コウ、どうかな?」
キットが恥ずかしそうにモジモジしながら聞いてきた。
「なかなか美人だぞ。」
「そ、そうですか・・・嬉しいです・・・」
顔を赤らめながら俯いてしまった。
我ながら人間そっくりにできたと思う。
「じゃあ、皆にお披露目だな。」
「えぇっ!」
「いや、全員に紹介しておかないと、いきなり知らない人が現れたら混乱するだろ?」
「しかし、前回は特に・・・」
「前回は、”キットがアダマントボディを手に入れてアンドロイドになった”って言っておけば誰が見ても分かっただろ?」
「うっ・・・」
「という事で・・・オモさん、昼休みの後にお披露目会でいいかな?」
「はい、閣下、承知しました。」
「うううっ・・・」
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昼休みが終わった。
キットは食事をしないので部屋に閉じ籠っていたようだ。
逆に皆は広場でキットの登場を今か今かと待っている。
イベントに乏しい開拓生活なので仕方ないだろう。
「それでは皆さん、キットさんのニューボディのお披露目会を始めます。」
拍手と歓声が沸き起こった。
これじゃキットは出てきにくいだろうな。
「では、キットさんどうぞ!」
現れたのは、装甲機動戦闘服を装着したキットだった。
ホバースラスターをフル加速させて移動しマイクの前に立つと、頭部ユニットを持ち上げ緊張した面持ちで話し出した。
「み、皆さん、キットです。このような姿になりました。よろしくお願いします。それではっ!」
「待てぇーーーい!」
頭部ユニットを元に戻し、再びホバースラスターをフル加速させていたキットを魔法で捕まえた。
「コ、コウ、わたしはちゃんと顔を見せてご挨拶しましたよ!見逃して下さい!」
「却下。最低でも10分はそこに居てもらう。」
俺は魔法で装甲機動戦闘服を脱着させていく。
「じゃあ、みんな、キットとの親睦を深めてくれ。できれば俺じゃ分からない化粧やオシャレの事も教えてやってくれ。」
「コ、コウ!わ、わたしは・・・」
押し寄せた女性軍に包囲され、キットの叫び声はかき消された。
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お披露目会は終了し、皆は日々の開拓作業に戻って行った。
残っているのは俺とへたり込んだキットだけだ。
「コウ・・・」
キットが涙目になっている。
眼球が乾いていると不自然なので涙腺機能もつけておいたのだ。
「悪い悪い、ほれ。」
俺はハンカチをキットに差し出した。
「うぅ・・・」
キットは目元を拭った。
お約束のように鼻をかんだりはしない。
「みんなに色々教えてもらえたか?」
「はい。でも、わたしなんかがオシャレしても・・・」
「おいおい、かなり美人に仕上げたつもりだぞ?もっと自信を持て。」
スメラ基準だと平凡な容貌かもしれないが、地星なら大抵の男が目で追ってしまうレベルに仕上げた自信はある。
「そんな・・・美人だなんて・・・」
「ま、俺の基準で、だけどな。」
「頑張ります!でも・・・一つお願いが・・・」
「なんだ?荒療治した詫びに変な事じゃなければ聞いてやるぞ?」
「この装甲機動戦闘服をわたしに下さい。徐々に慣れていきますので・・・」
あまり追い込みすぎて対人恐怖症になってしまっても困るな。
「分かった。ただし、シェルターではなるべく頭部ユニットを外せよ?」
「が、頑張ります・・・」
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荒療治が効いたのか、キットは徐々に皆と打ち解けているようだ。
ナホと友人達にメイク講座を開いてもらったり、サイズの合う服を貸して貰ったりしているらしい。
何度かオシャレをしているキットを見せてくれと頼んでみたのだが、キットは頑として譲らなかった。
命令すれば強制できるが、さすがにそれは野暮なので遠慮している。
そして量産機の製造も無事に完了した。
METやレーザーの製造も魔法のおかげで難なくできたが、将来の事を考えれば最終工程以外は製造ラインを用意する方が良さそうだ。
また、俺が提案したステルス機能だが、予定通りの性能を発揮した。
もちろん、拡張視野で全周囲スキャンをすれば目視で発見できるのだが、駆動音や電磁ノイズなどで感知する事は出来なかった。
もっとも、非常時にもパニックにならずに避難できるように人間の方が定期訓練をしなければならないし、偽装した退避壕も複数個所に作らないと、折角の機能もいざと言う時に使い物にならないだろう。
実効性を持たせる為にも色々と制度化しないといけないが、近い内に留守にしてしまうので、それまでに片付けよう。
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