第54話 求婚-07
婚約の翌朝
俺とナホは、オモさんの常駐する管理室に来ていた。
ナホの朝の体力向上カリキュラムは免除してもらっている。
キットも交えて結婚について説明し、オモさんにも理解してもらえた。
「なるほど、お二人はケッコンをしたいのですね。」
「「はい。」」
「スメラではそういう風習はありませんし、法的根拠もありませんが、私的にそういうイベントをする事は禁止されていませんから構わないと思いますよ。」
「よかったぁー。」
「それに、明るい話題も少なかったので、丁度いいイベントです。雰囲気形成にもいいのでシェルターのイベントとして協力しましょう。」
「おっ、それは助かります。」
意外にすんなりと了解してもらえたので一安心だ。
「では結婚式で必要となるのは立会人ですが、どなたにお願いしますか?」
「立場的にオモさんにお願いしたいですね。」
「おや、コンピューターでもよろしいのですか?」
「大丈夫ですよ。オモさんは教師役でもありますから。」
「教官としてはフジ少尉・・・いえ、忘れて下さい。」
「はい、きれいさっぱり忘れます!」
さすがに、あの人に誓うのはなぁ・・・
「出席者選びが難しいですね。」
「二人とも親戚や仕事関係者がいないからなぁ・・・」
「お友達も誰まで誘えばいいのか悩んじゃうなぁ・・・」
「管理者の立場で言わせてもらうと、呼ばれた人と呼ばれなかった人の間に溝ができるのは好ましくありません。」
「じゃあ、披露宴とくっつけて全員呼ぶか?」
「分けなくても問題ないのですか?」
「さっきの説明は典型的な式だからね。特に法律で決まってる訳じゃないから、自分達でアレンジしてもいいんですよ。」
「分かりました。それでは場所は大講義室でよろしいですか?」
「俺は入った事なかったな・・・ナホ、どう?」
「んー、多分大丈夫だと思うけど、後で一緒に見に行こう!」
「コウ、式場選びを丸投げすると一生言われ続けるそうですよ。」
キットがツッコミを入れてきた。
「あぁ、そうだな。オモさん、下見してから正式に回答するよ。」
「分かりました。お二人の結婚式ですから、十分納得するまで話し合って下さい。」
オモさんが何か考え込んでいる素振りを見せた。
「1つ確かめておきたい事があるのですが・・・」
「何でしょう?」
「披露宴で出すのは水と非常用保存食でもよろしいですか?」
そうだった、コース料理とアルコール飲料なんてのは夢のまた夢だ。
だが、せめて、せめて非常用保存食だけは避けたい・・・
俺は頭をフル回転させた。
「オモさん、次の物資が手に入るかどうか教えてもらいたい。発芽可能な豆、塩、炭酸ガス、コンプレッサー、甘味料の5つ。」
「豆は栽培用の大豆を合成中です。塩はシェルターにもありますが、50km程離れた東のクレーターに岩塩が生成されている可能性があります。ストックはなるべく使いたくないので、出来れば岩塩が望ましいです。炭酸ガスは冷却用液体窒素の精製中に分離していますので問題ありません。コンプレッサーはスケジュールを調整すれば使用可能です。申し訳ありませんが甘味料はありません。」
「じゃあ、塩は岩塩にするよ。あと、飲み物は水に炭酸ガスをコンプレッサーで加圧して、せめて炭酸水にして提供したいと思うんだけどいいかな?」
「はい、大丈夫ですよ。日取りが決まったらスケジュールを調整しましょう。」
せめて普段とは違う水をだしたかったが大丈夫そうだ。
甘味料でソーダ水にしたかったが無いものは仕方ない。
「食事の方は大豆を少し分けてもらいたいんだけど・・・」
「少量なら可能ですが、500人となると一人当たりの量は極僅かになりますよ?」
「いや、モヤシにするつもりなんだ。」
「モヤシと言いますと?」
「あぁ、地星には豆類を暗室で栽培するモヤシっていう食材があって数日で体積が数倍になるんだ。これを加熱調理して塩味を付けて出したいんだ。」
「こちらの映像をご覧ください。」
キットがモヤシの栽培映像をプロジェクターで早送り再生してくれた。
「なるほど、量は稼げますね。みなさんもそろそろ非常用保存食に飽きてきたかもしれませんので、こちらもご協力しましょう。」
オモさん、それは大きな誤解だよ・・・
披露宴の料理がモヤシ炒めというのは悲しいものがあるが、それでもきっと皆は喜んでくれるだろう。
「ところで岩塩はまた遠征して取りに行くのですか?」
「そのつもりです。できれば現地で成分調査をしてから回収したいですからね。」
「なるほど、ではフジさんとのスケジュール調整が必要ですね。」
その他に細々とした事を話してから解散となった。
具体的な日取りはまだ決めてないが、大豆の生産計画から3か月後を目途にする事にした。
皆には今日の午後にオモさんが説明してくれる事になった。
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