第18話 遺跡-08

「キット、戦果はどうだ?」

「歩兵3機は対空監視をしていたので装甲の薄そうなカメラ部を撃ち抜いておきました。指揮官機と分隊支援機の2機は撫で斬りにしましたが倒しきれなかったようです。」

「そうか、低パワーだったとは言え、かなり頑丈だな。ミスリル装甲なんだろうな。」

「追撃しようとしたのですが、煙幕を張られて見失いました。」

「絨毯爆撃はミラーがもたないか・・・」

「はい。それに煙幕はレーザーが散乱されてしまうようです。おそらくミスリル粒子が使われているのでしょう。」

「なかなか贅沢だな。ところで、次はどう出てくると思う?」

「地星の一般的な交戦規定なら、撤退あるいは投降ですが、無人機ならこちらを消耗させる為に全滅するまで攻撃という事も有り得ます。また、増援を待っている可能性も捨てきれません。つまり、分からないという状況です。」

「だよなぁ。しばらく待って動きが無かったら、撤退と投降の可能性は捨てよう。」

「そうですね。何分待ちますか?」

「せいぜい5分だな。増援待ちだったら厄介だしな。」

「わかりました・・・おや?」

「どうしたんだ?」

「いえ、先ほどの戦闘記録を解析していたのですが奇妙な点がありました。こちらをご覧ください。」

「対空監視していた3機か・・・」


蒼雷がロックオンしていた時の映像がHUDに表示され、次に照準点付近が拡大表示された。


「これは・・・人間の目か?」

「分析結果としては、日出国の15歳前後の女性の目とよく一致します。」

「じゃあ、人間が乗っているのか?」

「高高度からの映像ですから、虹彩や血管までは確認できないので断言はできません。それに、もう1つ奇妙な点があります。」


3つの画像がオーバーレイ表示された。


「見る限り全く同じだな・・・」

「はい、特徴点間の距離は一致しています。」

「謎が多いな・・・1機は無力化して乗員を捕虜にする。」

「了解しました。すぐに尋問するのは困難ですが、言語解析の役に立つでしょう。」


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俺の体内時計が時間を告げた。

念の為にHUDの時刻表示を確認する。

5分が経過していた。


「さて、撤退や投降の意思無しって事にしよう。」

「はい。どう攻めますか?」

「あの煙幕がある以上、向こうも俺たちの動きは分からないと思っていいよな?」

「確証はありませんからハイリスクな事は出来ませんが、おそらくそうでしょう。」

「あぁ、分かっている。20mmミサイルのサーモバリックで煙幕を吹き飛ばしてから、反射レーザー砲で分隊支援機の方を片付ける。指揮官機は水平射撃に切り替えて無力化するつもりだ。」

「それなら安全ですね。分かる範囲で指揮官機の武装も反射レーザーで破壊しますか?」

「あぁ、頼む。わざわざリスクを取る必要も無いしな。」

「了解しました。」

「サーモバリックの爆発高度の調整は念入りにな。ミサイル1発で煙幕を吹き飛ばす事と非致死性にする事は両立できるよな?」

「はい、大丈夫です。ミサイルは気付かれにくいように一度遠方まで飛ばしてから慣性飛行させて弾道軌道で上空から突入させようと思います。サーモバリックですので精密誘導は必要ありませんから。」

「分かった。煙幕があっても音だけは伝わるか・・・何か妨害音を出した方がいいな。」

「手榴弾を使いますか?」

「いや、補給が受けられないからな。出来るだけ消耗品は使いたく無い。」

「では、そうですね・・・あの巨岩群に特務改で切れ込みを入れておいて、発射のタイミングに合わせてハンマードライブで崩落させるというのは如何ですか?」

「おっ、ナイスアイデアだ。それで行こう。爆発音より警戒されにくそうだ。」

「レールガンの試射はどうされますか?」

「あぁ、そうだったな。ちょうどいい機会だから分隊支援機を的にしよう。仕留めた後にフルパワーの徹甲弾を試してみる。」

「了解しました。」


俺はキットの指示に従って、特務改で岩に切れ込みを入れていった。

1つ目をハンマードライブで落とせば、後は連鎖的に崩落して轟音が響き続けるだろう。


「これで終わりか?」

「はい。反射レーザー砲モードにしますので、セッティングをお願いします。」

「分かった。」


俺は再び特務改の二脚を最大まで引き出し、HUDに指示された方向にセットした。

そして最初に崩落させる岩のところまで登り、右腕のハンマードライブを押し当て、左腕の6連装20mmミサイルランチャーを発射方向に向けた。


「準備できたぞ。」

「それではレールガンの砲撃準備とミサイル発射体勢に入ります。」


レールガンが接続されたマウントが動き、右肩撃ちの位置にセットされた。

すでに徹甲弾が薬室上部に位置しているのでパンマガジンは動かない。

そしてミサイル発射モードに入ったランチャーの保護カバーの1つが開いた。


「タイミングはキットに任せる。やってくれ。」

「了解しました。5,4,3,2,1,開始。」


ハンマードライブが岩を崩落させた。

そして2つ目の岩にぶつかり大きな衝突音がしたタイミングで20mmミサイルが発射された。

ミサイルは蒼雷から受け取った地形データに基づいて地表を這うように低速で飛んでいく。

俺はその時間を利用して立ち上がれば砲撃可能な地点まで前屈みになって移動した。

もちろん、レールガンの砲身は地面と平行になるように角度が自動調整されている。

ミサイルは十分離れた場所まで到達すると、斜め上方に最終加速を行った後にロケットモーターを停止させた。

ミサイルの僅かな風切り音は崩落の轟音にかき消され全く聞こえない。

そして煙幕中央上空に到達すると気体爆薬を拡散させ着火した。


効果は絶大だった。

面状の爆風衝撃波が地上に襲い掛かり、煙幕を吹き飛ばした。

分隊支援機は目と耳を破壊され立ち尽くしているようだ。


「殺れ。」

「了解しました。」


攻撃対象が1機のみであり、狙撃後は水平射撃に切り替える事になっている事から、反射ミラーの耐久性をあまり考えなくてよいので、先程の掃射よりも特務改の出力を上げてある。

大破していた上面装甲を簡単に貫通し、分隊支援機を一撃で破壊した。

ついでに指揮官機が持っていたレーザー銃も破壊してくれたようだ。


「徹甲弾発射!」


動きの止まった分隊支援機の胸部中央をレールガンで撃ち抜くと、背後に派手に部品が飛び散っているのが見えたので、あの機体のミスリル装甲にもキューさんの新型徹甲弾は有効なようだ。


「砲撃終了。」

「了解しました。」


レールガンが再び収納位置に戻された。


「上手くいったな。」

「はい、流石です。特務改の反射レーザー砲モードを解除しました。」


特務改の二脚を伏せ撃ちの長さに調整し、スリングを腕に巻いた。

外骨格で支えられている装甲機動戦闘服と、自動補正機能の搭載された特務改の組み合わせではスリングを巻く必要性は無い。

ストックも使わずに片手でグリップだけ握っても命中精度は変わらないくらいだ。

しかし、昔ながらの火薬式実体弾の銃を使った子供の頃からの訓練で染み付いた習慣はなかなか抜けないのだ。


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「さすがに撤退するかと思ったんだがな。」

「こちらに向かってきていますね。」

「なんか見た目が変わってないか?」

「破壊した3機の装甲が無くなっているので、それらを即席増加装甲にしているようです。」

「なるほど。まぁ、どっちにしても無力化するんだけどな。」


特務改の出力は自動的に反射レーザー砲モードから通常モードに切り替わっている。

まずは武器の可能性がある部分を破壊していった。

通常モードでも直撃部位は蒸発しプラズマ発光を残して消え去っていく。


「キット、人間が搭乗していると仮定して、それをオーバーレイ表示してくれ。」

「了解しました。」


電子スコープに映る機体に人体モデルがリアルタイムに重ね合わせられた。

死なれては困るので体に当たらないように気を付けながら、駆動部がありそうな場所を撃ち抜いて行く。

しばらくするとボロボロになった装甲が一斉に落ちた。


「ん?」

「おそらく増加装甲をパージしたのでしょう。外見は3機いた機体と同じになりました。」

「そういう事か。」


狙い通りアクチュエーターは破壊できたようで、既に両腕と片脚は動いていない。

残った片脚を引き摺るようにして近付いてきている。

その気になれば動きを止められるが、向こうから来てもらう方が楽なので放置しているのだ。

残り100mまで近づいたので、残しておいたアクチュエーターを撃ち抜き停止させた。


「さて、どうやって引きずり出すか?」

「サバイバル用の銃を持っている可能性が高いですからね・・・」

「威嚇射撃でもするか・・・おっ!」


機体前面が開き操縦者が降りて来た。


「・・・裸族?」

「この星の文化なのでしょうか?」

「武器を隠し持たれるよりはいいが・・・」


現れたのは10代半ばに見える少女だった。

ただし、全裸である。

少女の顔立ちは、まさに平凡の二文字がピッタリと言っていいものだった。

思わず少し親近感を抱いてしまう。


そんな外見ではあるが、この状況でも単騎で突撃してきただけあって、投降するつもりは無いようだ。

両手で機内から取り出した剣の柄を握っている。


「*******!」


そして何かを叫ぶとこちらに突進してきた。

もっとも、突進と言ってもその足取りはおぼつかなく、剣の重さを支えきれないのか切先を地面に擦りながらこちらに向かってきている有様だ。

そんな状態ではあるが、憎悪、いや殺意をむき出しにした表情でこちらを睨みつけている。

確かに仲間は皆殺しにしたが、先に問答無用で撃ってきたのはそちらだ。

どうしてここまで憎悪の感情を抱かれなければならないんだ?

段々と腹が立ってきた。

ちょっと心をへし折って泣かせてやろう。

特務改を手放し立ち上がると、前に出て刀を抜いた。


「****!」


少女は俺には分からない言葉を叫びながら、両手で握った剣を叩きつけてきた。

しかし、幼い頃から親父に何度も臨死体験させられた俺にとっては、隙だらけで剣速は遅く剣筋も見え見えだ。

俺は余裕の笑みを浮かべながら刀で受け流そうとし、そして驚愕した。


少女の剣に触れた瞬間に刀がすっぱり切れてしまったのだ。

攻撃はぎりぎり躱せはしたが、余裕を見せるのは止めだ。

ハンマードライブをフルパワーで叩き込み、少女の剣を吹き飛ばした。

両手の骨は治療不可能なレベルで砕けるだろうが、知った事ではない。

ハンマードライブに引っ張られるのに逆らわず、逆に勢いを利用して回転しながら後ろ蹴りで少女を蹴り飛ばし、右腿のホルスターからコイルガンを抜くと少女の四肢を撃ち抜いた。


意外なことに、四肢を撃たれても少女は叫び声どころかうめき声すら上げなかった。

よく見ると、その理由が分かった。

傷口からは血が流れておらず機械らしきものが見えていた。


となると・・・やばい!

アンドロイドなら自爆装置を内蔵していてもおかしくない。


「スラスターフルパワー!」

「了解しました。」


俺はホバースラスターのフル加速でその場から逃げ出した。

もちろん、特務改は加速しながら拾い上げている。


背後からは笑い声が聞こえてきた。

そして静寂の後、爆発が起きた。

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