第14話 遺跡-04

「お待たせしました。後は上辺中央を撃ち抜けば分離できます。」

「じゃあ、装甲板を回収するか。」


切り出した板を拾ってバックパックにしまってから指定されたポイントを撃ち抜くと、ミスリルの扉が向こう側に倒れた。

中に入ってみると、通路は曲がりくねっており幅も高さも一定していなかった。

所々に特徴的な窪みがある以外はまるで天然の洞窟のような形状の通路だ。

その窪みは、上から見ると直角三角形の形をしており、こちらからは見えにくいが向こう側からは丸見えになるような構造だ。

つまり、その窪みに陣取れば外からくる敵を迎撃しやすく、敵に占拠されても敵は身を隠せない構造となっている。

この構造から考えると、いざとなれば迎撃して防衛するような施設、おそらくは軍関連の秘密施設だろう。


警戒しながらしばらく進むとドアがあった。


「キット、トラップはあるか?」

「いえ、見当たりません。ドアの向こう側は部屋になっているようです。」

「念の為、虫型偵察ドローン10機に偵察させろ。」

「了解しました。」


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虫型偵察ドローンが帰還したことがHUDに表示された。


「偵察完了しました。室内にトラップ類は存在しませんでした。」

「じゃあ突入するぞ。とにかく情報収集だ。万が一、何者かが現れた場合は撤退を最優先とする。」

「了解しました。」


室内に入りヘッドライトを点けて見渡してみると、研究室のような造りをしていた。

机、椅子、モニター、キーボード、実験用の手袋、部屋履き用のサンダルに保護眼鏡などがある。


いや、待て。

何かがおかしい。


あまりに自然すぎたので、この不自然さに最初は気づかなかった。

机の高さは見慣れたものだし、椅子も背もたれにひじ掛けというデスクワーク仕様だ。

モニターも大き過ぎず小さ過ぎずの実用的なもので、キーボードは見慣れない配置な点を除けば至って普通だ。

手袋も薄手の2枚1セットの普通の形だし、サンダルもよくあるツボ刺激用の突起が付いているタイプだ。

保護眼鏡も透明な2つのレンズに耳にかける蔓が付いているタイプだ。


そう、人間用、いや”地星人”用の設備にしか見えないのだ。


「キット、これは・・・人間、いや地星人がいたという事か?」

「私たちが地星からこの星に転移したという事は、過去にも同じ事が起きた可能性はあります。しかし、全くの偶然によってこの星の知的生命体が人間と同じような身体構造に収斂進化したという可能性もあります。」

「そう・・・だな。もう少し詳しく調べないと何とも言えないか。」

「コウ、これを見てください。キーボードのキートップの紫外線画像です。」


長年放置されてインクが分解してしまったせいかキートップは読めなくなっていたが、どうやら紫外線画像で痕跡が見えるようだ。


「変わった文字だな。」

「キートップを見る限り、50前後の文字を用いる文化のようです。」

「キット、データベース内の全言語のフォントとパターンマッチングしてくれ。古代文字も含めて全てだ。」

「了解しました。」


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「パターンマッチングが完了しました。該当文字はありませんでした。」

「という事は地星人用のキーボードでは無いという事か。しかし何か引っかかる。見たことがあるような気がしてしょうがないんだが・・・」

「文字以外で似たようなものを見た事があるという事ですか?」

「多分そうだな。キット、今度は画像データベースでパターンマッチングしてくれ。」

「了解しました。データが膨大ですので、まず日出国、次にコウが訪れた地域、最後にそれ以外の全画像データで処理します。最大で30分程度掛かる見込みです。」

「じゃあ取り掛かってくれ。俺は他の手がかりを探してみる。」

「では処理を開始します・・・あ・・・」

「ん?どうした?」

「たぶん見つかりました。」

「早いな!」

「コウの公式な方の仕事関係から処理したところ、ほぼ一致するものが見つかりましたので。」

「なるほど、それで何だった?」

「お札などに書かれている神代文字と呼ばれているものです。」


そう言われてみれば確かに似ている。

キートップの文字を変形させれば確かに見覚えのある神代文字になりそうだ。

神代文字は後世になってから捏造されたというのが定説なので、文字データベースには登録されていなかったようだ。


「キット、文字の形の変遷に関する論文はデータベース内にあるか?」

「はい。もちろんあります。」

「じゃあ、この2種類の文字は、どっちがオリジナルなのか論文から割り出してみてくれ。」

「了解しました。」


今度こそ部屋の捜索だ。

幸い、鍵が掛かっていないか、単純な構造の鍵しか使われていないようだ。

この星でも紙に印刷する文化は存在していたようだが、インクが風化しているせいか殆ど読めなかった。


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「コウ、駄目でした。複雑な文字が単純化するパターンも逆のパターンもあって、今回のケースでは結論が出ませんでした。」

「そうか、まぁ仕方ない。・・・ん?」


次に開けた鍵付きキャビネットは、開錠して取っ手をねじった瞬間に排気口から気体が噴き出てきた。

俺は吸気口をNBC戦用フィルタにバイパスしたままなので慌てず対処する。


「毒ガストラップか?」

「簡易分析完了しました。ただのアルゴンガスのようです。高気密キャビネットに与圧封入されていたのでしょう。」

「という事は・・・長期保管庫か?」

「おそらくそうでしょう。」


そのキャビネットには更に気密封止されたケースがあり、そのケースの中には個別包装されたパッケージが大量に保管されていた。


「これは何だろうな?」

「劣化しないようにかなり厳重に保管されていたようですね。」

「取り敢えず分析してみてくれ。」

「了解しました。」


時間がもったいないので分析結果が出るまでの間も探索を続行する事にした。

ただ、それほど時間は掛からないだろうから、手軽に調べられそうなものは無いかと見回すと、ディスプレイケースのようなものが目に入った。

中には金属ブロックが展示されていたので、とりあえずバックパックに放り込んでおいた。

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