第47話 ただいまジョバ村
馬車に乗る事3日、愉快なキャンプ生活を挟みつつ、港町ネッチアからトラッティア山脈の麓へと西北西に旅をする。
途中2度ほど俺が土下座する羽目になったが、特に何事も無く俺の故郷ジョバ村へとたどり着いた。
「おー見えた見えた、アレがジョバ村だ」
遠くに村を囲む柵が見えてくる。背後に広がるリッケ大森林から村を分けるための大切な柵だ。あの森には大型の猪がボスとして居を構えている。
かつては村の脅威だったと言う話だが、神父様が拳で対話をなさってからは、村の守り神として崇め立てられている。俺も修業時代はその魔猪に稽古をつけてもらったものだ。
「久しぶりだな、およそ半年ぶりか」
俺は感慨深くそう呟く。神父様の付き添いで1週間程度離れる事はあっても、こんなに長期間離れたのは初めてだ。家族や村人の顔が懐かしい。
「そう言えば、アデムさんの村と私の家とはトラッティア山脈を挟んで逆側になるんですね」
アプリコットが地図を見ながらそう言ってきた。修業の為山に登った事はあれど、反対側まで行ったのは、王都へ行ったのが初めてだが、なるほど確かにそうらしい。
「まぁ山を越えるには、遥か東のスラー街道を行くのが普通だからな」
俺の村から陸路で王都に行く場合、ぐるっと回って3か月。ネッチアから船で行けばその半分ぐらいでつくそうだが、生憎船員の知り合いはいなかった。まぁ今となっちゃいい経験だ。
「それにしても便利なもんだぜ転移門ってのは」
使ってみて分かるが、正に奇跡の産物だ。これが大衆に手が届く様になれば良きにしろ悪しきにしろ革命的な出来事となるだろう。
「全くよね、世界が一気に縮まるわ」
チェルシーは誇らしげにそう胸を張る。実戦派の俺とは違い彼女は父親譲りの学者肌だ、そっちの面での召喚師の地位向上は彼女に任せて、俺は俺のサモナー・オブ・サモナーズを目指そう。
ガタガタと馬車は未舗装の畦道を行く。畑仕事をしていた村民が何だ何だとこちらを向いた。それも無理はない、宿がお詫びとして用意した特級の馬車だ。こんなものが村を訪問するなんて年に一度有るか無いかだ。
「おーい、ラッセルのおやっさーん!」
俺は窓から顔をだし、畑仕事をしていた顔見知りに挨拶する。まぁ顔見知りと言っても無住全部顔見知りだ。
「なんだアデム! お前もう帰って来たのか! おーいみんな―アデムだ! アデムが帰って来たぞー!」
狭い村だ、その知らせは瞬く間に広まり、村の広場には俺を出迎える列が出来ていた。
「只今みんな、アデム・アルデバル戻って来たぜ!」
俺は誇らしげに魔術学園の制服を翻しながら馬車から降り立った。
「おおアデム!」「凄いぞアデム!」「村の誇りだ!」
俺の姿を見て、みんな我が事の様に歓迎してくれる。良かった、この笑顔を見れただけでも召喚師を志して正解だった。
「あらアデムさん、
何時までも馬車の手前で突っ立っている俺に、後ろから声がかかる。その声と共に現れたのは燃えるような赤髪を優雅に揺らすシャルメルだ。
おぉと言う歓声が村人から立ち上る。特に男連中は一発で彼女に魂を奪われている。
「あー紹介するよ、この子は真言魔術学科1年生の、シャルメル。ミクシロン家のお嬢様だ」
「皆さま初めまして、シャルメル・ラクルエール・ド・ラ・ミクシロンと申します。アデムさんとは仲良くして頂いていますわ」
そう言い、大輪の花が咲き誇る様ににこやかに笑う。社交界で鍛え上げて来ただろう完璧な笑顔だ。これには女連中も頬を染める。
いや、女連中が真に頬を染めるのはこの後だった。
「ジム・ヘンダーソンと申します。シャルメルお嬢様の従者をしております」
キャーと言う黄色い歓声がさっきまでの仕返しだとばかりに上がる。男連中は諦めモードだ。
続いてチェルシー、アプリコット、カトレアさんの紹介が終わる。村に一度にこんなに大量の人間が訪れるのは久々、それもこんなに個性的な連中だ。村は上へ下への大さわぎ。
その騒ぎの中で割って入る人がいた。
「おお、アデム君。お早いお帰りですね、その様子だと退学になったと言う訳ではなさそうですし。一体どうしたことですか?」
「神父様!」
俺は神父様に駆け寄り――
「だぁっしゃ!!」
渾身の蹴りを叩き込んだ。
「はっはっは、修業を欠かしていないようで何よりです」
それは指一本で止められるが知った事ではない、攻撃攻撃連続攻撃!
上中下段と攻撃を散らしつつ、危険に怯えるグミ助を神父様の眼前に召喚。しかし神父様は微動だにせず、構わず俺の攻撃をかわし続ける。
ちい、相変わらず厄介な人だ、何処を見て戦ってるのかすらよく分からん。
「ちょちょっとアデムさん!?」
「がははは、何時もの事だよ姉ちゃん。あれも修業の一環だってな」
突如始まった戦闘に、シャルメルが困惑の声を上げると、村人の1人が声を掛けて来た。
「あんなことを何時もやっていたんですの!?」
戦闘は苛烈なもの。彼女が以前目撃したアデムのどの戦闘よりも目まぐるしく立ち回っており、彼女では目で追う事も難しかった。
「あれが、ロバート・マードック。人類最強の戦士の1人」
傍らに立つジムはその一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らす。
「はぁ、全くお客を放って何やってるんだか」
「全く、お兄ちゃんはしょうが無いのです」
やれやれと言いながら村人の間から二人の女性が顔を出してきた。
「はぁい、お客さん。アデムが世話になっているようだね。私はイルヤ・アルデバル。アデムの姉さ、そしてこっちが」
「ミント・アルデバルです。お兄ちゃんが何時も世話になっております」
そう言い、2人の少女は頭を下げたのだった。
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