第78話 従業員の目的
「で、ワイバーン倒したのはアンタで間違いないのかい?」
デッカーさんが従業員のマグナさんに尋ねた。
「はい、時計塔に巻き付いていた、ふんどしに羽を付け足したような奴ですよね?あれ倒したのは確かに僕ですよ。シーツ干してたんですけど、アイツ仕事の邪魔だったので。アイツのお陰で屋上が日陰になって、シーツが乾かないなって。……そんで、頭に来て女将さんに教えてもらったスキルで火薬付きの矢をぶっ飛ばしました。カッとなってやりました。もしかして、あれ、倒しちゃいけない奴でした?もしそうだったらごめんなさい。反省してます」
マグナさんはデッカーさんに頭を下げた。
なんかよくわからないけど、こっちがなにも言わないのに、最後は反省にまで行ってしまった。
「いや、倒してくれて逆に有り難かったくらいだ。俺たちのパーティーは遠距離攻撃出来る者がいなかったから、手を出せずに居たんだ。助かったよ、ありがとう」
デッカーさんが逆に頭を下げた。
それを見たアマンダさんの目付きが変わったのを僕は見逃さなかった。
目を細めて、何かデッカーさんを品定めするような……。
デッカーさんの態度か発言に、何かしら思う所があったのか?
……この人はきっと何か考えている。
アマンダさんの目を見て、根拠のないなんとなくの勘だけど、そう思ったんだ。
アマンダさんはマリィさんの元冒険者仲間だし、信じたいけど、やはり少しは警戒した方が良さそうだと感じた。
もしかしたら、何かしら僕らを試そうとしているのかもしれない。
……試すとか、それ位ならばいい。
僕らを罠にかけようとか、騙そうとかだったら……。
『人を騙すやつは嘘のなかに少し本当の事を混ぜるんだ。それで嘘を本当の事の様に信じ込ませるんだ』
僕が初めてデッカーさんに会ったときに、デッカーさんに教えられたことだ。
今回アマンダさんはマグナさんが言うより先に、マグナさんが男だと僕らに教えてくれた。
───これが嘘の中に混ぜる本当の事だったら?
最初に本当の事を言うことで、アマンダさんがこれからつく嘘に説得力を持たせようとしているのではないか?
『私は嘘はつかない正直者です。その証拠に本人が言う前にわたしが男の子って教えてあげたじゃないの』って感じ?
なら、どんな嘘をつこうと言うのだろうか?
僕はさっきからアマンダさんが嘘をつく前提で思考を巡らせている。
でも、それくらいの警戒を僕だけでもしておいた方がいいだろう。
本当に信用できる人なら、それはそれで問題ないのだから。
「マグナくん、私からの質問いい?」
アマンダさんがマグナさんに質問があると言う。
「なんです、女将さん?スリーサイズなら教えませんよ?」
「スリーサイズは興味はないけれど、貴方の頭の中には興味があるわ」
「!」
一瞬でどこからともなく取り出した、ナイフとアイスピックをマグナさんに突き付けるアマンダさん。
「流石です、女将さん」
「こんなの朝飯前よ」
ノールックで後ろに放り投げたナイフとアイスピックは、見事にテーブルに置かれたリンゴに突き刺さった。
「私の質問に真面目に答えて。貴方は私から何を学んで何になりたいの?貴方の考えが知りたいわ」
「……僕の考え?」
「そう。貴方は私の所に来たとき、私の様になりたいので働きながら学ばせてくださいって言ったわよね?私は今の今まで、貴方は宿屋の女将になりたいって思って私の所に来たのだと思っていたのだけど……思い返せば貴方の質問は隠匿スキルとか暗器や攻撃スキルとか、女将の仕事にあまり関係ないスキルばかりだったわね?」
「……女将さん、今頃気づいたんですか?僕がここに来て、もう三年は経ちますが……」
「今まで全く貴方に無関心でした」
「女将さん、そりゃないですよ~」
……なんか、コントみたいだ。
「もしも、貴方が女将にではなく、
「……考え?」
「この方達は信用出来そうです。卒業試験として、この方が今受けているクエストのクリアのお手伝いをしてきなさい。決して私が行きたくないから、言っているわけではありません。私のスキルの殆どは貴方に教えました。最後腕試しを兼ねて世界を見てきなさい。くれぐれも誤解しないでね、私が行きたくないから貴方に押し付けていると言う訳ではないのよ」
「その卒業試験終わったら僕はどうなるのですか?」
「失敗なら、生きて帰ってこれないでしょう。成功なら免許皆伝ということで、独立して頑張ってください。寂しくなるわね、さようなら。」
「それなら卒業しなくていいので、行きません。今の生活が楽しいです。だから女将さんに接客スキルを学んで女将になりたいです。その為の女装です。こんごともよろしく……」
……なんか僕らが話をする前に色々断られた気がする。
告白前にフラれた、今の僕はそんな気分です……。
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