第47話 道具屋の過去

 カカシの道具屋に連れられて冒険者ギルドにやって来た。


 とりあえず、手続きをやってしまわないと。

 今日のノマドさんからのミッションは毛皮を売って冒険者ギルドに登録して無事に帰るって所まで。


 一つ目の『毛皮を売る』ってのは色々あったけどクリアできた。

 その流れで知り合ったカカシの道具屋にギルドまで連れてきてもらった。

 このまま冒険者登録まで出来そうだ。


 一階は酒場で二階に冒険者ギルドが入っているらしい。

 一階の酒場で酒を飲んでいた酔っ払い男が道具屋に声をかけてきた。

「おう!カカシの!今日は珍しく早くから飲みに来たじゃないか?とうとう店が潰れたか?」

「うるせー、相変わらず絶賛営業中だよ。俺の目が黒い内は大丈夫に決まってるだろ?お前も昼間っから安酒かっくらってないで、ちっとはギルドのクエストでもやって来いっての!今日はお得意様をギルドに案内してきたんだよ。」

 道具屋は酔っ払い男をあしらいながらも、歩みを止めずに二階への階段を上る。


「邪魔するよ」

 階段を上った先には広いフロアがあった。

 何名かの冒険者パーティーが壁に貼られている紙とにらめっこをしている。

 あれにクエストの依頼が書かれているんだろうな。


 いくつか受付カウンターがあるが、今はそこには一人の女性しかいない。

 やはり、受付嬢は可愛い女性と相場が決まっているのだろうか?

 受付の女性がこちらに気付き声をかける。

「あら、二階に上がって来るなんて珍しいわね。今ギルドマスター呼びますね……

 マスター!ウロボロスのデッカーさんがお見えになってますよ!」


 受付の女性が声をかけると奥から髭面の大男が現れた。

「おう!珍しいじゃねーか、お前が二階に上がってくるなんざ初めてじゃねーのか?不自由な脚じゃ梯子は登れても階段は上がれねーのかと思ってたぜ」


 ───足を落とした?

 道具屋は普通に歩いてここまで来たが、『足を落とす』ってなにかの隠語だろうか?

 それとも、本当に足がないのだろうか?


「相変わらずデリカシーってもんがねーな。今日は客を連れてきた。冒険者登録が希望だ。字が書けねーから俺が代筆してやるから、30で登録と保険の手続きを頼む」


「そこまでしてやるって事は、お前の親戚かなんかか?」


「いや、今日初めて会った。だが、信用できる男だ。未来のお得意様の為の投資みたいなもんだと思ってくれ。よろしく頼むぜ」


「まぁ、お前が言うならいいさ。…しかし懐かしいな。お前がここに来るのは何年ぶりだ?お前が足を無くし、相方は行方知れず…。何か力になれることがあったら相談しろよ」


「あぁ、ありがとう。何かあった時は頼むよ。…捜索の方は相変わらず手掛かり無しか?」


「…相変わらずだ」


 微妙な空気の中に事情を知らない僕は置いてきぼりだ。


「俺が昔冒険者だった話はしたよな?廃業の理由はこれだ」

 道具屋が左足の裾を捲ると、そこには作り物の足───義足があった。


「この界隈じゃセントルーズのウロボロスって言えば結構名の知れたパーティーだったんだ。俺と双子の弟を中心に活動していたんだがな。あるクエストでヘマをしてな、俺は足を切り落とされ、パーティーのメンバーは俺以外全滅。だが、双子の弟の死体だけは見つからなかった…」


「もう何年も時間が経っちまったからな。弟の手掛かりを探してもらうために、ここに出した依頼書も色褪せちまった。時間はだいぶ経っちまったが、まだ未練があってな。そのまま手掛かりがないか探してもらっている」


「もう生きちゃいないだろうがな、何でもいい、手掛かりがほしいんだ」


 義足だった事にも衝撃を受けたが、それよりも居なくなった人の帰りを待つ人の気持ちを間近で見て、僕はこれから待っている東の魔女の元への旅と平行で行う、影の犠牲者への弔いの重要性を再認識したのだった。

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