伝説の跡継ぎは僕!?宝の地図はどこだ!?

観音寺 和

第1話 祖父の隠れ家はどこだ

小学生の頃、夏休みに訪れた田舎の祖父の家。

そこで祖父の将棋仲間のお爺さん、野元さんから聞いたおとぎ話。

主人公は海賊になり海を渡ったり、盗賊に捕まった姫を助けたり、悪い魔法使いを懲らしめたり…

おとぎ話だったが、まるで見てきたかのようなお話に目を輝かせた僕。

「大きくなったら僕もそんな冒険がしてみたい!」

それを横で聞いていた祖父の何気ない一言。

「俺の跡を継ぐのはお前かもしらんさ…」


月日は過ぎ、僕の16歳の誕生日に届いた封筒。

差出人は昨年亡くなった祖父。

中には手紙と、沢山の鍵のついた鍵束。

手紙には一言「封印が解ける。宝島に渡れ。詳しくは野元を頼れ。あとは頼む」


封印?宝島?頼む?祖父は僕に何を頼みたかったのか…これだけの情報ではわからないよ…

それで僕は手紙に書いたあった通り、祖父の将棋仲間の野元さんを訪ねようと思ったんだ。


祖父の手紙を読んだ次の日曜日、僕は野元さんを訪ねるために、祖父の家の有った町に向かった。


祖父の家を訪ねるのは小学生以来だ。

野元さんのおとぎ話に興奮したあの次の年、友達に誘われてサッカークラブに入った僕は、それまでのように夏休みなどの長期休暇に祖父の家を訪れることが出来なくなっていた。

あの夏が祖父に会った最後だった。

祖父が亡くなった時も、祖父の生前の意向で葬儀は行わないとの事だったのと、受験生だった僕に祖父の死は何かしらの影響与えるかもしれないと、母が祖父の家に行くことを反対したからだった。


電車を何度か乗り換え、後は目的の駅までこのまま乗っていれば良かった。


車窓からは田畑や遠くの山々が見渡せた。

ここに来てやっと景色を楽しむ余裕が出てきた。

初めて1人で祖父の家に電車で行くことで少し緊張もあったと思う。

それに母親には内緒で出てきた事もあり、背徳感の様なものも感じていたし、冒険しているような妙な高揚感もあったが、最後の乗り換えを終えた頃になると、落ち着いて景色を見ながら乗り換えの時に買った缶コーヒーを飲むことができた。


「光一郎様のお孫さん、こっちを向かずに聴いてください」

僕の座ったボックス席の後ろから若い男の声がした。

光一郎は亡くなった祖父の名前だ。

「あなたは狙われています。次の駅でドアが閉まる寸前に降りてください。荷物は絶対忘れずに…」


「僕が狙われているって!?誰に狙われているんですか?…と言うより、あなたは誰ですか?どうして僕が光一郎の孫だとわかったのですか?」

指示通り後ろを振り向かずにではあったけど、気が動転した僕は早口でボックス席の僕の後に居るであろう、若い男に話しかけたんだ。


「私はあなたの知っている野元の爺さんの孫のような者です。詳しくは追手を巻いた後で…」


しばらくすると気配で後の男が他の車両に移動するのがわかった。


深呼吸して周りを見渡した。


後の席には男は居なかったし、車両にはポツポツと客は乗っていたが、見るからに怪しい者は乗っていないようだった。


次の駅に着き、ドアが開いた。


目的の祖父の家はまだ先の駅であったし、降りるのはためらわれた。

しかし、祖父の名前を知っていた若い男は僕が何かに狙われていると言っていたし、この駅で降りてもまぁ、なんとかなるかと短い時間で割り切ることが出来た。

だから途中下車に対してはもうどうでも良かった。


あとは降りるタイミングだ。


扉が閉まるギリギリに降りろとの指示だった。


ベルが鳴り、車内のアナウンスが流れた。

「今だ!」

僕は荷物を掴むと車外に飛び出した。


かなりギリギリのタイミングだったから、僕の動きをみて僕に付いて扉から出た者はいなかっただろう。

動き始めた電車をみると、扉の窓から悔しそうにこちらを見ていた男女がいた。


無人の改札を抜け、持っていた飲みかけのコーヒーを一気に飲み干した。

「もしかしたら、あれが僕を狙っていたやつらなのかな…」

そんな独り言を言う僕の後からまたあの声がしたんだ。


「100点です坊っちゃん」


振り向くとそこには黒いクラシックな車が停まっており、傍らにはワイシャツに黒いベストとスラックス、手には白い手袋をはめた背の高い二十歳前後と思われる若い男がいた。

とまっている車はタクシーではないが、若い男はタクシー運転手と言った感じの出で立ちだった。

坊っちゃんって呼ばれたけど…僕はそんな呼ばれ方するようなお金持ちの家の子供ではなかったし、普通なら抵抗あるはずなんだけど、なぜか違和感を感じつつもその呼び方を受け入れることができた。


「初めまして、光一郎の孫の海原輝うなばらひかるです」


「初めまして、ではないんですよ、坊っちゃん。光一郎様の家でお会いしています。わかりませんか?」


「祖父の家に最後に来たのはもう随分昔だし、覚えているのは野元のお爺さん位かなぁ…」

実際の所、祖父の家は山の中にある一軒家であったし、記憶では近所に子供などはいなかったように思う。

だから、祖父の家にいった時は祖父や野元のお爺さんと、近くを流れる渓流で沢蟹を採ったり釣りをしたり、カブトムシやクワガタのなどの昆虫採集など、自然の中で遊ぶことが多かった。


「少しの間、目を閉じてくださいますか、坊っちゃん」

目の前の若い男に促され僕は目を閉じた。


「それでは、これならわかりますかな?」


目を開けるとさっきまで若い男が立っていたそこには、野元のお爺さんがにっこり笑いながら立っていたのだった。

なんで!?変装?マジック??


「お久しぶりです、野元…いや本当の名前はノマドと申します。光一郎様を御守りするために彼方の世よりやって参りましたが、この度、光一郎様より輝お坊ちゃんの守護を仰せつかりました。」


「先ずは光一郎様の御自宅ではなく、隠れ家へご案内いたします」

気付けば野元のお爺さんはまた若い男に姿を変えていた。

「御自宅はの手下の手がまわっています故に…」


普通なら到底信じられない話だけど、目の前でこんなの見せられたら信じるしかないよな。

でも、祖父の隠れ家だって。

昔野元のお爺さんに聞いたおとぎ話にも沢山出ていたな。

たしか、魔法の鍵束を使って隠れ家を行ったり来たり…使う鍵で扉の出口が変わるって言っていたっけ…

もしかして、祖父からの手紙に入っていた鍵束って…


僕は鞄から例の鍵束を出した。

「坊っちゃんはやはり、察しがいい!」

ノマドさんに渡すとにっこり笑いながら、鍵束の中の1つを無造作に車の鍵穴に差し込んだ。


「それではこんどこそ光一郎様の隠れ家へご案内致します」


車のドアを開けると、そこにはあるはずのない石畳の廊下が続いていたんだ!!




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