『ファッション配信』

isachill

第1話 進撃のファッションモンスター

18/10/05

深夜



その配信は長い静寂から始まった。

数時間前にギャンブルの配信を終え、見ていたリスナーも眠りにつこうとしていた深夜に、予期せぬ配信が始まったのである。


開始から長い静寂のあと、そこにN原は現れた。

やけににやついた口元をあけると開口一番、


「やってくれたなー!!」


そう言い放った。

この物言いはリスナーにとって必ずしも予期されたものではなかったが、しかし彼が責任転嫁のために責任ガチャを引いたであろうことは推察できた。

しかし、事はそう単純な話ではなかった。

彼が話し始めた事の顛末は以下の通りである。


今年の夏頃、ある学生イベントの出演オファーを受け、東京へ赴いた。それは打ち合わせであったが、そこで出会ったリスナーでもある学生に一目惚れをし、地元までの交通費を払うことで家に連れ込むことに成功する。しかしその時、自身の海綿体はいつになく元気であるのに肝心の夜の営みまでついにたどり着けなかった。

そうこうしているうちに月日だけが過ぎた。学生との間には大きな亀裂が走り、すれ違いの末学生は怒りのあまり今まで撮り溜めていた二人が共にいた証となる写真や日々のやりとりをSNS上に流出させてしまったのである。



語られたこの内容自体は、N原のオフパコ未遂という一言で片が付く。

そう大きく騒ぎ立てるほどのことでもない。

しかし、その一連の内容にはよく考えると日頃のN原からは不自然といえる言動がいくつも散見された。


・交通費など一連の金の出所

・東京へ赴いたことを今までひた隠し

・語られた時期と流出した写真の撮影時期との相違点


そしてそこにうっすら見え隠れする隠された存在、隠された事実。


そして、彼はリスナーからの疑問のコメントを恣意的に選んでは読み、ソースを出せとの一点張りに徹する。

自身の確固たるソースの存在をちらつかせつつも、納得してもらわなくて結構とリスナーを煙に巻く。


語るに落ちる、とはこういうことを言うのだろうか。


日頃N原は、"ファッションうつ"などと自身の精神状態を皮肉っていたが、彼の配信さえも"ファッション配信"であったのか。


彼の今までの配信の魅力たるその世界観の崩壊は、今や止まるところを知らない。

彼が築き上げた大胆な世界観のロジックは、今や内から矛盾を生み出している。


しかし。だがしかし。

これがN原の新たな世界観の創出であるとすればどうだろう。

N原が沈黙を続ける中、リスナーの中ではN原の様々な世界線が浮かび上がってきている。

それは勝手な期待や失望にまみれた、虚像のN原が生きる世界線。

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