062_箱

生まれた時から閉じ込められてる

あるのは食べ物とよく分からない玩具

そして微かに聞こえる優しい声

それに従っていれば私は生きていけた


狭いと訴えれば箱はどんどん広がった

暑い寒いと訴えれば箱は適温になった

そして微かに聞こえる優しい声

それに従っていれば私は生きていけた


ある日、私は箱が欲しいと思うようになった

微かに聞こえる優しい声がその時は怒声に変わった

それでも私は箱が欲しいと思うようになった


微かに聞こえる優しい声に内緒で箱を作った

私はこれ以上ない幸せを感じていた



微かに聞こえた優しい声はもう聞こえない

私の箱はとても狭く暑い寒い

そしてなにより作った箱が邪魔だった



私は箱を壊した

中身はなにもなかった

これは仕方ない事なのだ

私が生きるためなのだ



微かに聞こえる知らない声が聞こえる


微かに聞こえた優しい声が聞きたい

私自身も声を発せなくなってきた


動けなくなった今、もう動かなくなる今

私はいつまでも箱の中にいる

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