闇の讃歌

江戸端 禧丞

序章

第1話・始まりの物語

 それは唐突な発言だった、一人の少女が暗黒街のBARへと呼びつけられ、やたらとのんびりしているのにどんな存在より危険な神域級の魔物から、何故か死体を分けて欲しいと申し出て来られたのだ。彼女等の生活はその死体を売りさばくことだ、暫く答えられずに頭を悩ませていると、その魔物─紫陽花あじさいはニッコリ笑った─


「大丈夫だよぉ、金貨にして還元したいだけだから!それでもっと色々出来るでしょっ?そーのーかーわーりーっ!僕のお願いも聞いてね?」


 闇色の髪の美しい彼は、華やかな笑顔を浮かべて言い切った。そして分厚い書類を少女に手渡すと、『それがブラックリストだよ、先に殺してくれて良いから!お金いっぱい貰えるよっ』えらく物騒な遣り取りになってしまったが、殺しのリストには上から順に実力者たちが名を連ねている。何も知らぬ者が見ると、決して少女が相手にできる様な存在とは思えない人物ばかりだ。しかし、白い肌に華奢な体型、黒髪をおだんご頭にしている少女リューヴォは、どうやら今行われているコレが彼にとっての自分との取引らしいと気づき、一度しっかりと頷いた。


その様子を確認した紫陽花は、BARカウンターへと軽やかにスキップをしながら戻って行く。もう帰ってもよいのかと、少女は自分をこの場所へ呼びつけた斎賀さいか しのぶが座っている辺りへ視線を運んだ、そうすると彼は、微かに困惑しているリューヴォの表情を見てとり一つ頷いた。少女はホッとひと息を吐くと、ようやくいつも通りの夜の街へと消えていくのだった、その足取りは往路おうろの時よりも僅かに軽やかなものになっている。


 ─さて、この時に至るまで彼女やその仲間たちがどれほど苦労したことか、この大規模な学園都市シザリアスの東部に位置する暗黒街付近では、ほんの5年ほど前まで縄張り戦争が勃発していた。


 その頃の彼女等に必要だったのは、力と武器と、自由と報酬だ。今でこそ当たり前のように都市部内でも暗黒街でも大体の区分けがなされているが、それ迄は酷いものだった。これは、まだ周囲に味方と呼べる者達が少なく、同じ街で生まれ育ってきた同胞だからと強く団結した彼女等が共闘し、Xエリアと呼ばれる場所で勃発した、初めて当該地域が纏まって起こした戦争の話でもある。




 

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