30作品、分解(バラ)してみた。
森川 蓮二
001――天使は奇跡を希う(小説)
あらすじ
主人公、新海良史のクラスには天使がいる。
背中から鳥のような羽を生やした彼女――星月優花の羽をアピールするかのような言動に悶々とした日々を送っていた良史は部室にやってきた彼女に思わず羽のことを突っ込んでしまう。羽が見えていることを知った優花は嬉しそうに言う。「天国に帰るために協力してほしい」と。
それから良史と優花の天国に帰るためのミッションが始まり、同じように彼女の羽が見えている友人、越智健吾と同じ新聞部で良史の彼女でもある村上成美も巻き込んだ四人で様々なミッションをこなしていく。
そして彼はあることに気づく。自分が星月優花に惹かれはじめていることに。
概要
天使の羽という秘密を共有した四人が今治の街で織りなす青春小説。
作者はライトノベル作家としてデビューし、一般文芸として発売された『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』が実写映画化もされてヒットした七月隆文。
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』と『君にさよならを言わない』を読んだが、どちらも今の現実世界をベースにちょっとした要素を足すという形で作られており、今作も瀬戸内海にほど近い街――今治を舞台にしつつ、そこに天使の羽を生やした少女というファクターを入れて話を動かしている。
人称は一人称だがねちねちと感情描写がされるわけではなく、あっさりとしつつもストレートな文体である。
さて、この話はログラインとして一言で言うなら、「主人公が天使の羽を生やしたヒロインが天国に帰るためのミッションを友人も巻き込んでこなしていく中で、彼女に惹かれていく話」である。実際下記に記した三幕構成に分解したストーリーラインを見てもらえばわかるが、一幕から二幕中盤までは良史が優花に深く関わって惹かれている過程が描かれ、優花が好きであるという欲求と彼女がいずれ天国に帰らねばならないという問題という形で葛藤が浮き彫りになっていく。
しかし、作品の折り返し地点であるミッドポイントあたりで視点が主人公である良史から離れ、ヒロインである優花にバトンタッチすることで話の流れが一変する。
同時にこの話のもう一つのログラインともいえる「不登校だったヒロインが、好きだったが事故で死んだ主人公を蘇らせるために悪魔と契約を結び、彼を生き返らせるために自分の存在を思い出してもらおうと孤軍奮闘する話」という筋が見え、良史が好きであることを含めた真実を話したいという欲求と悪魔との契約で自分の正体を明かさずに彼に思い出してもらわなければならないというヒロイン側の葛藤が明かされる。
つまるところ、今作のヒロインである優花はヒロインであると同時に良史と同格、あるいはそれ以上に主人公としての側面を持っている(実際読んでみると、良史の抱えた問題よりも優花側に深く感情移入できる人が多いと思う)。そしてそのあいだ優花に代わってヒロインを務めるのが良史の彼女である成美なのだ。
もちろん優花が行なった契約の象徴として良史、成美、健吾の三人だけ(優花を含めれば四人)に見える天使の羽という要素も絡んでくる。
天使の羽が良史達にしか見えないことに意味はあるのだが、最初の良史視点からはそれは明かされず、あくまで天使の羽というぼんやりとした形で暗示されている。しかし優花に視点が移行することで実はその羽が悪魔に課せられた「星月優花のことを忘れた(忘れさせられた)良史が一カ月以内に彼女のことを思い出せるかどうか」という賭けを読者にわかりやすく提示するための象徴的な存在だということが明かされるのだ。
最初は天使の羽という曖昧な要素で暗示をさせ、中盤でその裏に隠された悪魔との契約が顕在化されてくるのである。
そして、良史が優花のことを思い出せるか出せないかのサスペンスに絡んでくるのが今治という街である。
なぜなら良史が死に優花が悪魔と契約する以前、彼ら四人の中で共有されている思い出とは共に今治の街で育んだものある。これを思い出さなければ主人公である良史は優花を救うことはできないのである。
だからこそ一幕から二幕中盤に観光地巡りがあり、優花視点から伏線などが回収されていく。
恋愛という要素も確かに挿入されているが、個人的には今治という街で作った思い出を駆使して、現状を打開しようとする物語といったほうがしっくりとくるものがあった。
ストーリーライン
フェーズ1(設定)
・優花がやってきてからの良史の日常(プロローグ)
・二学期の初めに良史のクラスに優花が転校生としてやってくる(良史の回想)
・放課後、優花が新聞部の部室にやってきて、つい羽根のことをツッコんでしまう良史だったが同じ部員で彼女である成美と入れ替わるように優花が去っていく
・夜、外出した本屋でたまたま優花と出会い、天使がどういう存在かを聞かされ(空腹感や睡眠などないこと)「天国に戻る手伝いをしてほしい」と言われ受け入れる
・土曜日の朝。来島海峡から亀老山展望台までを優花を乗せてサイクリングし、走りながら何故東京から今治に来たのかを語る良史(イジメを行なっている生徒を殴ったが、親にその理由を理解してもらえずケンカしたため)
・亀老山展望台にたどり着き、互いの指でハートマークを作る二人(伏線①)
・お昼休みに学食で健吾と成美の三人で食事した良史が帰ってくると、優花の「今治城を散歩する」というミッション書かれた紙が机に入っているのに気付く
第1プロットポイント
・放課後、今治城近くで合流する良史と優花だったが、運悪く成美と鉢合わせしてしまい彼女にも羽が見えていることが明かされ、共に城に向かう途中で健吾と出会い、彼にも羽が見えていることがわかる。
フェーズ2(対立・衝突)
・健吾の家に集まり、「天国に戻る手伝い」兼地元紹介の部活も兼ねて今治の観光地を回ることが決まり、その日の夕方に有名なカキ氷屋に赴く
・月曜日の放課後に市民の森と三島神社を訪れる四人
・今治タオルの製造工場を訪れるが、なぜか優花が涙目になる(伏線②)
・三島神社で成美が良史にキスをする
・その日の夜。コンビニ前で出会った優花を駅まで送り、その中で彼女を好きであることを良史が自覚する
・三島神社にやってきて悪魔と顔を合わせた優花視点から、四人が幼馴染であること、ある願い――事故で死亡した良史を生き返らせるために悪魔と契約したことが語られる
・良史を好きになるまでの小学校時代、彼がいなくなり不登校になった中学時代、良史が今治に戻り、彼と再会する高校時代が語られる
・優花を元気付けるために良史が観光地巡りをする(この際の言動が天使となった優花の言動や行動の伏線となる)
・良史が死に、通夜の日に現れた悪魔と契約を結ばされ、天使の羽を得た優花
・二学期の初日に転校生として良史たちの前に現れる優花
・天国に戻るためのミッションをやり始めてからの出来事が優花の視点で語られる
・期日が最後の一日となったことが明かされる
第2プロットポイント
・良史に別れ話を切り出されたことをきっかけに成美が記憶を取り戻す
フェーズ3
・悪魔が優花に「魂と引き換えに良史だけを生き返らせる」という契約の変更を持ちかけ、怪しいことを理解しつつも残り時間の少なさから受け入れてしまう
・良史が優花を見つけ、成美と別れたことと優花が好きであることを告白するが内心を押し殺しつつ優花がそれを断る
・契約書に悪魔がサインさせようとするが、成美がそれを阻止し、優花と良史が灯台で会えるようにセッティングする
・優花が小学校時代に良史から盗んだ名札を返し、それがきっかけで良史の記憶が戻り、優花が賭けに勝つ
・四人で来島海峡大橋を渡り、健吾が成美に告白する(エピローグ)
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