真実なんて…

横断歩道の信号機が赤から青にへと変わった瞬間、僕は人混みを掻き分けながら、

一目散に梨花が待つカフェへと走り出した。梨花に逢えるという想いがより一層、僕の走るスピードを上げていく。街を行き交う人達が、何か絵の具で混ぜられてしまったかのように、無数の色絵と変わっていく…

梨花に早く逢いたい…こんな気持ちにさせる女性は初めてだった。

抑えきれない心の鼓動が激しすぎて、呼吸をするも初めてだった。

気がつくと僕は梨花の目の前に立っていた。でもそれは何時も梨花とは違う梨花の貌をしていた。

笑うと小さな瞳が消えてしまうと思ってしまうほどの笑顔を見せる梨花、テレビアニメ「アンパンマンの曲」を聴いては泣いてしまう程の情緒豊かな梨花ではなかった…


「そうさ、泣き出しそうな辛いことがあってもいいことだけいいことだけ思い出す〜♪」ここの歌詞を聴いては泣いていた彼女。そんな彼女が愛おしかった。


「おう、やっと着いたよ…だいぶ待ったっしょ?」


なんとか、自分の心の中を察しられてなるものかと、必死で自分の心を落ち着かせている。彼女はきっと何かを隠している…それはいくら単純で鈍感な僕にだってわかっていた。何時も必ず午前0時前には帰宅する彼女…

それはどれだけ二人が愛し合った日だって変わることはなかった。

必ずと言っていい程、彼女はシャワーすら浴びない。僕のコロンの香りをやたらと気にする彼女。「これだけは外せなだよね…」って何時も、ふとした時にでも見つめて時でも外さない指輪。決して高価な指輪ではなく、手作りのような物であった。

彼女の不審なところを挙げたらキリがない程だった。必ず、午前0時に帰ってしまうシンデレラガール。どんなに愛し合った後でも、決してシャワーは浴びないけど、まるで、1ミリの香りすら残さないほど、僕の見えないところで、自分が吸った煙草の煙を全身に吹き付けていた彼女…

人は何故繰り返す別れを受け入れるのだろう。

そして、また同じ過ちを犯してまでも恋をしてしまうのだろうか…



信じたらその人を最後まで信じ切る

一度、繋いだ手は二度と離さない。


死ぬまで、何度でも騙されて傷付いたっていい。

でも、騙したくはないそんな男でいいと思っている

愛する人の涙は見たくないし、できれば、苦しみや悲しみを分けっこしたっていいくらいだと思っている。


突然、僕の顔を見上げた梨花が気不味そうな顔をしている。

「どうしたの?なんか気分でも悪いの?」

「う、うんうん、ぜーんぜん。待ってませんよーだ」

何かを隠しながらその場を取り繕う梨花がいた。

明らかに動揺を隠せない。何故なら彼女は嘘をつくとき必ず右の上を見るかの様に瞳が動かすからだった。僕は彼女を見逃さない様になってしまった。それはきっと誰よりも愛しているからだった。

「梨花、なんかもう食べた?昼…」

「う、うん、まだー」

あっけらかんと笑い、いつもの梨花に戻った。彼女を苦しめているのは何だろう…

彼女が何であっても、どんな嘘をついていても僕は彼女を受け入れてあげたい。

純粋にそう思った。誰にだって言えないことの一つや二つはある。そんなことを敢えて聞こうなんて僕は思わないし、思いたくもない。彼女が彼女であればいい。いつでも側で守ってあげたい。こんな風に想っている。


「じゃあ、美味しいもん、食べに行くか!」

「うん!」


子供の様に満点の笑顔を返して見つめる梨花。その笑顔に偽りはなかった。

そっと、僕は左手を彼女へと差し出した。その手をぎゅっと右手で掴む梨花を愛おしく想いながら、僕等は博多駅から、天神へと繋がる通りに向かってゆっくりと歩き出した。


この手を二度と話したくない。そう僕は想った…

彼女が幸せであったらいい。心からそう想っている。




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