眠りにつくにはまだ
彩藤 なゝは
第1話 呪い
「傲慢な王妃、間抜けな王、そして低俗な貴族たち!
ごきげんよう。
アンタ達の招かれざる客、呪いの魔女よ。
僭越ながら、オヒメサマに贈り物を用意してさしあげたわ。
姫は15歳になった夜、紡ぎ車の錘が指に刺さって死ぬだろう!」
その憎悪に満ちた一声は、たちまち空気を震わせ城内の
――ひとたび呪いを受ければ、それから逃れることはできない――
そう評されるほど、その魔女は呪術師として高名であった。
そのためその場に集まっていたものたちは皆、深く恐れ慄いた。
それは魔女が高笑いを響かせながら黒炎と共に消えた後も続いていた。
うろたえていたのは王と王妃も同じである。
姫生誕の宴にあの魔女を招かなかったのは確かだ。
魔女たちへ出す金の皿が一枚足りなかったから――
『呪いの魔女』という肩書きが宴に相応しくなかったから――
性格の難が有名だったから――
理由は色々ある。
それが彼女に対して無礼にあたることも承知していた。
しかしまさか、こんなことになるなんて……。
「皆さま!お静かに!」
その一声によって、人々の間で沸いた熱がピシャリと打ち消された。
それは冷水のような、それでいてどこか優しい、そんな澄んだ声音だった。
声の元へ視線が集まる。
そこにいたのは、正式に城へ招かれた魔女のうち、まだ姫への贈り物をしていない魔女――祝福の魔女と呼ばれる者であった。
彼女は言った。
「あの魔女の呪いはとても強力で、完全に打ち消すことはできません。
しかし弱めることならできます。
姫は死なない。代わりに眠りにつくだろう!」
その凛とした一声は、たちまち空気を震わせ城内を潤し、そして姫を優しい眠りで包み込んだのだった。
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