第127話 アンセムよ
吸血鬼アンセムの赤い眼光が揺らめき、すると閃光が一気にこちらへ伸びてくる。
レーザービームのようにこちらへ彼が直進してくる。何とか盾で防ごうとするが、動作に移るやいなや閃光は曲がり俺の真横へ、
「ッ!?」
俺の目のみが奴に反応出来たが、すでに剣が俺の脇腹を切り裂いていた。
耳元でアンセムが囁く。
「おっと、急所を外してしまったか。すまなかったな人間。痛いであろう?」
「うくっ!?」
俺は暑くなっていく腹を押さえ膝から崩れた。痛みが徐々に湧き上がり、身体から力が抜ける。
やばい……
このままでは……このままでは殺される。
立ち上がって距離を取らなければと頭では考えていても力がどうしても入らない。
「イット!!」
俺の名を叫びながら、アンセムに食いかかるコハル。
だが、赤い閃光が弧を描くように伸びるとアンセムはすでに元居た位置に立っており、剣に付いた俺の血を払う。
コハルは唸りを上げた後俺に問いかける。
「大丈夫イット!?」
「ああ、ありがとうコハル……」
俺の腹から痛みが徐々に浸透してくる。
本当は痛みで叫びたいが、アイツから目を離せば殺される。
人智を超えた力の差に感覚の優先順位がおかしくなっていく。
腸が零れないようにとりあえず手で切り口を押さえてスタッフを構えると、後ろに居たソマリが近寄る。
「イット君手を放して! 治癒するから!」
言われた通り手を放す。
交代するようにソマリの手が俺の腹を押さえ奇跡を唱え始める。
「イットとソマリちゃんは後ろに下がってて! 私が壁になる!」
俺達を庇うように獣状態のコハルが前に立った。
今にも走り出しそうな彼女の制止を促す。
「コハル待て。アイツは強いし、何かがおかしい」
奇跡によって腹の傷が塞がり、少しだけ気持ちが落ち着いたのか、俺は身体の異変に気づいた。
コハルも俺の様子に気づいたのか訪ねる。
「おかしいって?」
「ああ、何か身体が怠い気がする……切られた痛みではなく何か……違う倦怠感が」
ちょっとした気怠さが身体を重くする。
血が抜けたからかと思ったが何かが違う。
何だ?
何の攻撃を受けたんだ?
いや落ち着け俺、とりあえずわかったことがある。
「とにかく、アイツの目が赤くなったことで、あの瞬間移動みたいな能力は単純にアイツが高速で移動していただけだ。ソマリの奇跡で拘束したら時、動かなかったのも納得がいく」
距離的にロイス達と話せないが、ソマリとコハルには聞こえる様に話す。
「もう一度アイツを奇跡で拘束し、そこから――」
「我を魔法でバラバラに解体する。そう言いたいのだろ小僧?」
「……え」
「貴様等の戯れ言は、聞こえているのだよ。耳障りだから黙っていろ虫けらめ」
ロイス達より遠く離れたアンセムが話しかけてきた。
決して大声で話しているわけではないのに俺の言葉を聞き取ったのか?
凄い地獄耳だと少し笑えてくるが、非常にまずい。
こちらの作戦は全て筒抜けと言うことだ。
アンセムは目に見える速度で動き出す。
「小僧、どうやら我を倒す算段を練っているようだが、下等生物は上位存在に勝つことなど出来ない」
話ながら彼は飛び上がり、宙を舞いながらこちらへと剣を閃かせる。
「蛆虫が束になった所で、踏みにじられて終わりということだッ!!」
眼前に迫るアンセムに構える俺達だが、彼に向かって一筋の光が見えた。
アンセムは握った剣で閃光を弾き飛んでいた身体の軌道が大幅に外れ、着地した。
代わりに俺達の前では、体制を整えたシャル、重装備のルド、そして剣を構えるロイスが前衛に居た。
「お待たせしたイット君! アイツからソマリちゃんを守れば良いんだね!」
「ああ、そうだ! 助かるぞロイス! 出来れば妨害を……」
「……なるほど、わかった!」
彼は察してくれたようで助かる。
俺達は損傷軽微でかつ相手の情報を少なからず得た。そして、皆が万全の状態で臨戦態勢をとった。
うちのリーダーが号令する。
「皆いくぞ! アイツに全力をぶつけて活路を見いだす!」
ロイスの掛け声と共に、皆は動き出した。
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