第84話 分担よ
聖水を買いに来ただけだったが、急遽依頼を受けることになった。
目的はゴブリンの巣を探しに行った子供達数名、そしてそれを追った新米シスター一人を連れ帰るということだ。
俺達は馬車を止めさせてもらい準備をするのだが……
「このワタクシに寝てろと言いますの!? 薬を飲めば行けると言っているでしょ! 女だからって舐めないで下さらない!」
猫背になりながら腹部を押さえ、険しい表情のルドが着いていくと言うのだ。
ロイスが宥めるも言うことを聞かないので、俺も説得する。
「聖水を飲んでも一日は休まないとならないんだろ? 相手はゴブリンだけだから、少人数でも相手にでき――」
「うるさいわね! アナタ如きに指図される筋合いなんてないわ!」
「お前……こっちは心配してだな!」
俺達の口論に「まあまあ」とロイスが止めに入り話がまとまらなかった。
そうこうしていると、メイド姿で姿勢を正してこちらの様子を窺っていたシャルが提案する。
「分担するのは如何でしょうか?」
子供の捜索隊と教会の護衛隊として二組に分かれることを提案した。
人手は多いに越したことはないが、魔物の討伐ではない以上冒険者が分担しても問題はない。それに探すだけならシスター達に手伝ってもらえば良いのだ。
問題は、例のゴブリン達は教会へ定期的に作物を荒らしに来るので見張りは必要になりそうだ。
彼女の提案に納得した一同は、探索と教会の防衛と二手に分かれることとなった。
俺は役割提案を行う。
「まず、確定なのはルドが護衛班がいいだろうな。俺達の中でもっとも人を守ることに長けている」
「フン! 貴方に言われるのはシャクですけど仕方有りませんわね」
体調不良だからと敢えて言わずに丸めて言うとルドも何とか納得してくれた。
次にロイスが提案する。
「ルドが護衛になってくれるなら、僕とイット君は探索班が良いかもしれないね」
「男二人が探索班か?」
「そう、子供相手だから男手が必要になると思うし」
ここに居る人物達なら誰でも子供を押さえるぐらいなら出来そうだけどな。まあ、一般的な考えならそうなるだろう。魔法も使えるし、教会内の人達にも自分の場所を知らせる手段は多いに越したことはない。
「わかった。一応子供をまとめる為にも探索班にもう一人入れておこう。残りはコハルとシャルの二人だけど……」
俺は迷った素振りを見せるが答えはすでに決まっていた。
「コハルが良いんじゃないか? 獣の姿になれば鼻も利くし、そもそもの筋力や身のこなしは俺より上だからな」
「私? いいよ! 匂いを追うの得意だよ!」
コハルもいつも通りノリノリなので問題ない。ロイスも納得の表情で、役割分担が決まった。かのように思えたのだが……
無表情に淡泊な口調でメイド少女が割り込んできた。
「コハル様ではなく、シャルを同行させてください」
「……え?」
決まった雰囲気が一変、皆が驚きの声を上げた。呆気に取られる中、ロイスは彼女に質問する。
「シャルちゃん、どうして君は着いてきたいんだい?」
「……ここで、皆様に実力を示したいのです」
「え? 実力?」
「はい、シャルが皆様の足を引っ張る足手まといでないことを証明しようと思いました」
出発前にロイスからいろいろ言われていた経緯を考えれば、何となく言いたいことはわかる。だが、それをここで言うのはあまり良くないのではと俺は言葉を挟んだ。
「その気持ちは分かるが、さっきロイスが言っていた通り子供の命がかかっているかもしれない案件だ。シャルちゃん、君にはコハルに代わる何か策があるのか?」
「……はい」
何故だか知らないが、シャルは俺のことを冷淡な眼差しで睨み淡泊に返事をする。
少しの間を置いても何も話さなそうだったが、ロイスが思い出したように話す。
「そうか! シャルは
「はい、その通りでございます。ここはワタクシ、シャルの出番と言うことです」
「わかった! これなら分担したバランスも良いと思うし、それじゃあシャルに同行してもらう!」
トントン拍子に訳の分からないまま決まっていく。
その様子を呆然と見ていた俺だが、何とか我に返り突っ込む。
「い、いや、ちょっと待て! 勝手に決まったが本当に大丈夫なのかロイス?」
「え? どうしてだい?」
「その子は非戦闘要員だろ? たとえ
「大丈夫! シャルも屋敷に居た頃いろいろ力仕事をしていたし、特にメイドという職業は体力が必要だったからね!」
「……そうなのか?」
「ああ! だから戦闘はさせずに子供をまとめてもらうよ。それでいいよねシャル?」
ロイスが最後にシャルへ訪ねると彼女は「承知しました」と頭を下げた。
ロイスは続けて……
「それに教会の防衛が手薄になってしまうから、それこそ超人的な身体能力のコハルちゃんが居た方が良いんじゃないかな?」
……シャルの実力が分からない以上、不安が拭いきれない。
だが、それをここで証明したいというのが彼女の意思なのだろう。何よりやる気があるということを尊重したい。
それにたとえゴブリンと言えど、シャルを廻したら体調不良のルド一人に戦力が集中してしまう。これはバランスが取れているのかもしれないな。
「わかった。それじゃあまとめるぞ。子供達の探索が俺とロイス、そしてシャルの三人。教会の護衛班はルドとコハルの二人と言うことで決まりだな」
そう言うと、
「だ・か・ら! ワタクシのことはルド様とお呼び!」
元気な返事をしてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます