第82話 生理よ

 冒険者は6割程が男性である。

 これを多く見るか少なく見るかは任せるが、冒険者ギルドの調査では女性の冒険者が増えているのだとか。

 本で学んだ話だがそもそもの生理的な面で女性は冒険者に向いていないとされて

 主に出産、月経など旅に出る上で避けては通れず、最悪その場で動けなくなるほどの障害が発生してしまい、男性よりもそのリスクを背負いやすい。


 だが、世は冒険全盛期であり、逆風の中でも冒険者になりたいと志す女性達が居たわけだ。彼女等の為に、異世界ならではの生理用品や試行錯誤が行われてきたのである。




「……」


 馬車の中で横たわるルド。

 シャルは馬車の手綱を引いているので、横になるルドにつきそうコハルだったが、彼女に拒否され俺達と共に体育座りしていた。

 気を遣って、彼女の周りに荷積みした木箱でバリケードを作ってあげた。


「まさか、月経沈静薬ピルを詰め忘れてとはな。ちゃんと確認しておけば良かったな」

「そうだね。僕達にはあまり縁の無かった物だから盲点だったよ。次の街では準備ちゃんと準備しようか」


 俺達の世界にあった生理移動用のピルとは違いこの世界では、生理期間の大幅短縮を目的としている。

 個人によって異なるが一週間程度続く生理期間を一日に短縮し、それに伴う痛みも緩和してくれる。

 まさに女性冒険者の必須アイテムと言われている。

 それを忘れてしまった訳だ。

 気付いたのが魔物の少ない街道、しかも馬車移動で本当に良かった。やはりこんな状況で襲われでもしたら大変だ。


「うーん……やっぱり人間って大変なんだね。私はルドちゃんみたいにはならなかったからわからないや」


 コハルも気の毒そうに彼女が居る方を向く。ふと、聞いて良いのかわからないが、コハルの口ぶりに疑問が浮かんだ。


「わからないってことは、コハルみたいに魔物は生理が来ないってことなのか?」

「ううん、私もちゃんときてたよ! 寝込む程じゃなかったってこと!」

「お、おう、そうか。それは人間とかではなく個人差ってやつだな。後そんな元気よく答えなくても良いからな」


 俺とコハルのやりとりにロイスが笑う。


「胎児を産む生物の宿命みたいだからね。人族も魔物もそれは一緒なんだと思う」

「へー、そうなのか……卵生のラミアやハーピィなんかは聞いたことがないから、俺達が言うところの哺乳類に属する生き物がってことか」

「確かに、そう考えると僕達の居た世界視点で考えると面白いよね。ワーウルフやラミアも同じ人型の魔物だとは言ってもまるで別の生態なんだって」


 そうだな。

 たとえ意思疎通が出来ても、ここまで身体の構造が違うと価値観が違うのも納得してしまう。

 そして、親近感も……


「ちょっと貴方達! 少し謹んで下さらないかしら? ワタクシが話題に上げられているみたいで、非常に嫌なのだけれど!」

「え、あ、ごめんルド。そんなつもりじゃ」


 積み荷の壁からルドが注意し、ロイスが謝る。どちらかというとコハルを話題に上げていたと思うのだが、どちらにしろデリカシーがなかったかもしれない。

 反省している俺達をしり目に、黙々と手綱を引いていたシャルが話す。


「ロイス様、早々に教会へ向かうのが宜しいかと思います。女性が多いのでタイミングが悪ければ足を止めてしまうかもしれません」

「そうだね。ただ次の街まで数日かかると思うんだ。どこかに集落とかがあれば教会もあるとは思うんだけど……」


 ロイスの言葉に俺は引っかかった。


「ん? 月経沈静薬ピルの話だよな? 何で教会なんだ? 普通に薬屋に行けば良いんじゃないのか?」

「あれ? 知らなかったのかい? 教会にも売っているんだ。市販の物より高額だけど、不妊症になるリスクの無い洗礼を受けた聖水なんだ」

「不妊症!? そうなのか!? そんなの初めて聞いたぞ」


 深く話を聞くと、成分調合された薬は物によるが月経事態を無理に押さえ込み身体に負担がかかりやすいそうだ。

 薬の効き目にも個人差が有り、だからといって用量を守らないと子供を産めない身体になる恐れも秘めているようだ。

 貧困の激しい街の売春婦など、好ましくない薬を安価で流通させている為そういった事態が起こりやすいようだ。


「だけど、教会の聖水はそもそもが違うんだよ。大天使の洗礼を受け、魔王との戦いに参加する者は男女問わず受け入れるという方針で長旅における女性の不利な仕組みを一時的に変更するを起こしてくれるんだ」

「確かに戦いだからな。人員が多いに越したことはないってことか。そうだとしても、神の力か何かで身体の仕組み変えるなんて、あのサナエルちゃんは中々のことを奇跡で起こすんだな」

「合理的だと思うよ。それだけ魔王との戦いは過酷なんだよ、きっと」


 過酷か。

 そんな仕組みがあるなら、そうなんだろうな。これから俺達は、死と隣り合わせの戦いへと踏み出して行くのだと改めて思い知った。シャルの言うとおり、手に入れておく必要はありそうだ。

 俺は持っていた地図を開き、近辺の地図を確認する。


「……ん?」


 地図を眺めていると見覚えのある単語が視界に入った。


「アウターイースト・ガブリエル教会……」


 俺は馬車から外の様子を窺う。

 この街道……何となくだが覚えている。


「皆この先にあるガブリエル教会に行こう」


 皆が俺に注目する。

 コハルは嬉しそうに尻尾を振る。


「イット、もしかしてそこって!」

「ああ、俺達を育ててくれた教会だ」

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