巻き込まれ君の事情
ちょっとこのお兄さん危ない人かもしれない。いきなり違う世界から来ただなんて宣言して、何処とは言わないけど頭は大丈夫だろうか?
真剣なお兄さんに優しい微笑みで返す。
「その…大丈夫ですか?」
「え?はっ、あの本当なんです!嘘じゃないです、本当に別の世界から来たんです!」
「あ、お姉さん。お兄さんにもう一杯飲み物を追加してあげて。」
「あいよー!」
威勢のいいお姉さんだ。このお店は繁盛するだろうね。
「あ、絶対信じていない!本当なんです、信じて下さい!」
「うーでも…。」
俺が信じられない理由はただ一つ。異世界から来たってことは勇者でしょ。
そんで勇者といえば強いでしょ。あいつだってそこそこ強そうだった。なのに、このお兄さんはどう見ても強く見えない。
「お兄さん異世界から来たってことは勇者ってことですよね?でも、その失礼ですが全然強そうに見えないのですが…。」
実際、ビックボアちゃん達にボッコボコにされてたよ。
「う…それを言われると辛いですが、僕は確かに異世界から畑中裕太くんと一緒にこの世界に召喚されました。」
「畑中裕太……って誰?」
「えぇー。」
そんなガクーンとされても勇者の名前なんて知らないよ。
風景の一部と化してしまってエルドさんのような個性を造れないか悩んでいた護衛騎士のトールさんがそっと耳打ちをしてくれた。
「女神様、確かあのクソ馬鹿野郎の名前はユータと聞きました。」
「そうありがとう。」
そっか、あの馬鹿野郎の名前はユータか。勇者の名前を知っているってことは本当にこの人も勇者なのかな?
まだ決定打に欠ける。
お兄さんが本当にあれと一緒に異世界から来たのか確信を持つ方法かぁ。
俺の年相応の頭脳に電撃のように光明が駆け抜ける。
そうだ、これを聞けばあいつと同じと分かるはずだ。
「今から言う私の質問に答えて下さい。これで貴方があの勇者と同じく異世界から来たのか分かります。」
「ごくり……はい。」
あれと同じ世界から来たなら分かるでしょう。
「ロリコンってどういう意味ですか?」
「ぶふぅっ!?」
さあ答えて下さい。
「あの勇者が私を見て俺はロリコンじゃないからなと笑っておりました。一緒に来た貴方ならロリコンがどういう意味か理解しているでしょう。答えて下さい。」
「う、うぅ…。」
目がとても泳いでいる。
「さあ、さあ、さあさあ!」
「うぅ………はい答えます。ちゃんと答えるので信じて下さい。」
「はい、もちろんです。」
「………はぁ、ロリコンというのはその大の大人が幼い女の子に、その…恋するって意味です。」
一瞬躊躇いが見えたが彼は嘘をついてはなさそうだ。
「僕はどうして少女の前でこんな説明をしてるんだ…。」
お兄さんが頭を抱えて落ち込んでしまった。心なしか彼の周りだけ日陰になっているようだ。
とりあえず頭を撫でておこう。
スゥ様には莫大な効果があったからお兄さんにも慰め程度には安らぐかもしれない。
「お兄さん、なんかごめんね。」
「謝らないでくれると助かります。」
「う、うん。でも、お兄さんが勇者と同じく異世界から来た勇者だって信じるよ。」
「あ、ありがとう。でも、僕は勇者ではないみたいなんだ。自分を鑑定して見たら勇者なんて表記されて無かったから。」
鑑定?
「ん?鑑定って何ですか?」
「鑑定を知らない?そうか、この世界には勇者以外魔法が使えないんでしたっけ。えーと、鑑定っていうのは神様が何もない僕に与えて下さった能力の一つです。簡単に説明しますと、人や物のあらゆる情報を知ることが出来る力です。」
相手の色んな情報を知れるってとても凄い力な気がする。俺には使い道が思い浮かばないけど凄そう。
ずっと俺が飲んでいた飲み物を凝視して息が荒かったエルドさんが口を挟む。
「ほほぅ、それは素晴らしい能力ですね。しかし不思議ですなぁ、そんな能力であれば勇者殿みたいな魔法や力が無くともお城で重宝されそうなものですが…。」
「はは、僕もそう思います。ですが、この鑑定が使えるようになったのは追い出された後でして、もう二度とお城に入らせてもらえませんでした。」
「追い出されたって…勝手に呼び付けといてその後保護してあげないなんて…。」
「せめて元の世界に帰してくれれば良いんですけどそれは無理みたいです。力の無い者など不必要とドワノフって人に銀貨数枚渡されて城から出されましたよ。」
あのくそ爺か。
思わず拳を強く握ってしまう。
アリスちゃんの堪忍袋に亀裂が入り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます