不気味な好意と準備期間



阿鼻叫喚の混ざる一室。

それも当然。王族達が次々と盛大に吐瀉物を撒き散らしたからだ。

俺もあと少しのところだったけど、無理矢理紅茶を流し込んで胃までお帰り頂いた。

原因となった珍獣以外の王族組は強制退場となり、今部屋の中は元凶と蒼白い顔の騎士団長に宰相のロイドさんと俺、ついでにノートン。

メイドと執事達も王様達を連れて行った人達以外はちゃんと待機している。口の端からツゥーとあれが垂れているものの、しっかりと平然を装い立っている。

この人達は鍛え抜かれた達人、従者の鑑だね。



ちょっとした現実逃避を終えて先ほどの続き。

確か私兵を出す話だったね。辛そうにするロイドさんが殿下に問いかける。


「フリード様、護衛に関しては人数など以前から決められていた事でございます。急に追加は難しいかと。」


「何を言うか。大切な聖女様をお守りする者が増えて嬉しく思えど困ることは無かろう。」


「おぇ…し、しかしフリード様もう巡礼用に費用はもう割り振られておりますし…。」


吐き気と奮闘するロイドさんに馬鹿が被せてくる。


「そんなもんまた追加すれば良かろう。ロイドよ、貴様は大切な聖女様を蔑ろにする気か?」


「しかしですねぇ…。」


「ええい、なら聖女お前に聞こう!迷惑か?私の私兵は精鋭揃いだ。迷惑ではなかろう、よいな?」


もう口調戻ってんじゃん。

迷惑というより面倒くさい。

絶対なんか怪しいよ、ガルムさん達だって凄い疑惑の目で見てるもん。

王子に向ける目じゃないよ。

でも、ここで断っても更に鬱陶しいだろうな。


はぁ、まあいいか。


「私は構いません。本来ならフリード様を御守する兵士を光栄にもお付け頂けるとは何だか心苦しいです。(訳:やめて、いらん。)」


「ふっはっは、そうか遠慮することは無い。私の部下達は必ずやお前を護る盾となろう。はっはっは!」


「まぁありがとうございます。大変申し訳ございませんが宜しくお願いいたします。(訳:やめて、いらん。)」



脳内をポッカポカの太陽が照らしているウマ鹿王子には、俺の想いは届かない。

なんでこう面倒事が何度も順番待ちしているのかな。

溜息混じりのぼやきは高笑いしながら去っていく馬鹿には最後まで聴こえていなかった。




あれが居なくなった後、謝り倒してくる面々に聖女の力を施して医務室で悪夢にうなされる王族組も癒やしてあげる。

落ち着きを取り戻しすやすやと眠るスゥ様達を確認したら、馬車に揺られて教会へ帰宅。



それでは出発までに準備を整えましょう。



なんて意気込んだものの俺は正直何を準備したら良いか分からない。

着替えがあれば良いでしょうと小さな鞄に詰め込んでる時に、ニコニコと笑うロコルお姉ちゃんに腕を掴まれ止められた。

これだけじゃ駄目?はい、分かりました。


俺はちょこんと椅子に座らされ、俺が用意した鞄のおよそ3倍もの大きさの鞄を2つも取り出してどんどん詰め込まれていく。


そんなにドレスって要る?最初のお披露目だけでしょう。

え、訪れた町の領主の屋敷で必要?宿屋かと思った。

でも、一着で良いんじゃ…はい、分かりました。



巡礼は思ったよりも大変なのかもしれない。



不安の多く残る巡礼まであと5日。

それらを紛らわすようにひたすら治療をしまくり、当日を迎えるのであった。




王城にやって来た俺を待ち構えていたのは沢山のメイド達。

ニンマリと笑う彼女達は引き攣る俺に一斉に襲いかかってきた。




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