番外編 聖女の冒険
このオーロラルという世界には冒険者という職業がある。
それは、世界各地を旅して未開の地を発見したり凶暴な魔物達を退治する。はたまた一つの街に絞って周辺の魔物討伐などで生計を立てて一生を過ごす事もある。
大抵の人達は安全と安定を求めて後者を選ぶ場合が多い。
強さを追求して前者を選ぶ者は少ない。
かく言う俺も聖女として選ばれていなければ冒険者になろうと考えていた。強い奴らと戦いたい気持ちがあったからね。
でも、聖女となったからにはそうはいかない。未だ患者は訪れるのに秘境の地へと行っている場合ではない。
それに治った人達の笑顔が見れるのはそう悪くない。
だから、冒険者になるという一つの夢は諦めていた。
そう諦めていた。
しかし、俺の内にある戦闘欲がどんどん溜まってきている。
最近はあのお茶会の他は治療や治療と散策くらい。
ごく偶にロコルお姉ちゃんや騎士の人達と稽古を行なうことはある。けど、あくまで練習。命を懸けた実践には遠く及ばない。
俺の煮え滾る欲望は留まる事を知らない。
すでに禁断症状で鈍っておらんかー鈍っておらんかーと爺ちゃんの幻聴が聴こえてくるくらいだ。
こっそりと決意した。
王都の周辺にいる魔物相手に解消していこうと。
俺は聖女という肩書き。このままでは外には出してもらえない。
一部の人達は俺が強いのを知っているけど、他の人からすれば外聞的によろしくない。
よって、冒険者になる。
冒険者の女の子として密かに実行すれば問題ないはず。
善は急げとまずは協力者集め。
いつもの散策時と同じようにロコルお姉ちゃんに声をかける。
ロコルお姉ちゃんに黙って行動する気は無いし、隠したくもない。
こそこそと俺の部屋に連れて行き、協力をお願いする。
お姉ちゃんは当然渋る。俺が強いといっても心配なんだと思う。
嬉しいけど、頑張って説得を続ける。粘って粘って粘りつくす。
困ったさんを見る目でため息を吐かれたけど、条件付きで了承してくれた。
条件は、冒険活動時いつも通りお姉ちゃんも同行すること。依頼は日帰りで出来ることのみ。ちゃんとトーラスさんの許可を貰う事。
以上の三つを突破すれば、冒険者として魔物と戯れられる。
依頼を日帰りは魔物討伐が目的だから簡単なのにするつもりなので問題無い。ロコルお姉ちゃん同行もいざとなれば守るから問題無い。
一番の関門はトーラスさんの説得だ。
かなり厳しいと思うけど頑張ろう。
早速、トーラスさんのいる部屋へ突撃。
突然の訪問にも穏やかな対応をするトーラスさんも、説明するうちに次第に険しい顔へと変貌していく。
もちろん反対される。
この国にとって貴重な聖女をわざわざ危険な目に遭わせたくないようだ。
どんなに強い者でも何が起こるか分からないのが世の常。
全然トーラスさんは折れてくれない。
それでも諦めない。
俺のしつこい懇願とお姉ちゃんの援護もあって数時間の交渉の上、ようやく折れてもらえた。
でも、絶対無茶をしない事とロコルお姉ちゃんの言うことは必ず聞くようにと約束させられた。
何はともあれこれで魔物ちゃん達の顔を拝めるぜ。
聖女には似つかわしくない笑みを浮かべて冒険者登録に向かう。
冒険者となるには専用のギルドへ行き、ちゃんと登録する必要がある。
王都の冒険ギルドは広場へと続く大通りにあり何度か見かけたこともあり迷わず行ける。
自分のやや目立ち気味な長い金髪を布で巻いて誤魔化し、服装もローブから元々俺が持っていた服で見事に聖女要素は無くなった。
ロコルお姉ちゃんもシスター服から普段着に変えて上に皮鎧を装備している。
俺も必要ないのに安全の為にと着せられた。
変装した俺とロコルお姉ちゃんは、大きく看板に『ようこそ、冒険ギルドへ!』と書かれた建物へ入っていく。
ギルド内は酒場も併設されているようで、昼間っから酒臭い。
爺ちゃんで慣れてるから問題ないけどね。
見た目はただの女の子二人。
只でさえ男性ばかりで女性冒険者が少ない中で、こんな場所に訪れる人物としては一際珍しい。
あちらこちらからジロジロと視線を感じる。
聖女になってから注目される機会が増えたからこのぐらい大したことない。
気にしても仕方がないので、さっさと受付の場に待機している女性の所へ移動する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます