小さな波紋
夕暮れ時、路地裏の住人達全員の治療が終わった。
聖女の力で疲れることは無いけど、次から次へと感謝の連撃が止めどなく来るから気疲れしちゃったよ。
ふぃーと腕で額に流れる汗を拭う。
あ、ロコルお姉ちゃん布ありがとう。
そろそろ帰るか。
アモスさん達に別れを告げようと振り向くと、アモスさんと愉快な住人達全員が俺に向けて跪いている。まるで毎朝トーラスさんが聖堂でする礼拝に似ている。
なんで?
ロコルお姉ちゃんは分かりますよというようにまたウンウン頷いてるし。
俺は分からないよ。
「えーと、なんで皆様跪いていらっしゃるのでしょうか?」
「私達はこれほどの奇跡を授けてくださった貴方様に差し上げられる者は何もありません。ですから、私達一同これから一生貴方様に絶対なる忠誠を誓います。なあ、みんな!」
「「「おお!忠誠を誓います!」」」
えー困る。
いらないよ。
「ありがとうございます。ですが、貴方方がこうして元気になられたことが私にとってなによりの喜び、褒美にございます。ですから、一生の忠誠は必要ありませんよ。」
や、やんわりと断れたかな?
これで流れてほしい。
『おぉ‥女神様‥』『なんたる慈愛をお持ちの御方なのだ‥』『いと尊き御方‥』
よく聞き取れないけど、未だ跪く人達から口々に呟いている。
立ち始めた鳥肌から考えるとろくな事では無いと思う。
「ですが、それでは私達は何を貴方様に捧げれば‥」
いや、何も要らないけど。
元気に生きてくれりゃあそれでいいんだけどなぁ。
少し考える。‥‥‥そうだ!
「でしたらお願いがあります。まだこの街には多くの怪我や病気で苦しんでいる人達がいるでしょう?そういう人が居たら私に教えてくださいませ。私は時折王都を散策しています。すぐに声をかけてくださいね。」
「「「は、はい!喜んで!」」」
おお、すごい息ぴったりだ。
「皆さんもアモスさんの掲げた理想のようにお互いに協力しあって頑張って生きてください。何か困ったことがあれば遠慮なく言ってくださいね。」
「「「おおー!!」」」
うんうん、なんとか落ち着いたかな。
よし、帰ろう。
「お姉様!」
ミーナちゃんの突撃。
良いタックル、将来は突貫兵かな。
ギュッと抱きついてくる。
「お姉様お姉様お姉様!」
「み、ミーナちゃん。また今度会いにくるからね。次もまた屋台で食べようね。」
「お姉様お姉様お姉様お姉様!」
き、聞こえてるよね?
一心不乱にぐりぐりと抱きつくミーナちゃんを引き剥がす。
「それでは、皆様またお会いしましょう!」
なおも祈りを捧げるように跪く人達に大きく手を振って去る。
早く帰らないといつまでも跪いてそうだし。
ミーナちゃんはロイくんに羽交い締めにされてます。
こうして、数日に一度の王都散策に治療活動が加わった。
やっぱり治療も出来ず苦しみ続けている人達は多くいるみたい。
毎回何処からともなく現れて怪我や病気の人を教えてくれる。
教会内で特訓以外にやる事が無い分、やり甲斐があって嬉しい。
よし、今日もどんどん治療していこう!
この時から密かに広がり始めた小さな噂。
それは、薄暗い路地裏に癒しの女神様が現れたと。
その波は徐々に大きな波となり王都の人々に実しやかに囁かれていく。
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