報告と歓声
―――
竜樹が抜けて六人になった俺達だったけど、順調に活動してファーストアルバムと3rdシングルを出した。
竜樹以外のギターでは歌えないと俺が駄々をこねたもんだから、ギターは氷月のキーボードで作った電子音源で補われた。
いざレコーディングの日になるとどうしても一人いない虚無感に襲われたが、吹雪のいつもの『大丈夫』があったから乗り越えられた。
そしてプロモーションが一段落した俺達はスタジオに集まって今後について打ち合わせをする事になった。
「それじゃあ今後は……」
「あー…ちょっといいか、氷月。」
「何、嵐?」
「俺から一応報告があるんだけど……」
「え~!何、何?重大発表?」
早速打ち合わせを始めようとする氷月を止めて俺が立ち上がって発言すると、雷が興味津々って感じで前のめりになった。
俺は吹雪を一瞬見てから一つ咳払いをして言った。
「じ、実は俺と吹雪は付き合ってるんだ!隠してた訳じゃないけど中々言い出せなくて……」
「何だ、その事?」
「へ……?」
氷月の妙に冷静な一言に固まる。吹雪も戸惑ってる様子でキョロキョロしているが、その場にいる全員の呆れた顔を見てため息をついた。
「皆知ってたの?」
「知ってたっていうかバレバレ。むしろ気づかれてないと思ってた方がビックリだよ。」
「氷月……いつから?」
「五回目のハリセンの後にくっついたんでしょ、どうせ。その後から二人の様子がぎこちなかったから、やっとくっついたかって思ったけど。」
「っていうか、俺から見たらずっと前から嵐も吹雪ちゃんもお互いの事好きなんだろうなぁ~って感じだったんだけど。ほら、俺いつも一番後ろで皆の事見てたから。そっか、そっか。付き合い始めたんだね~良かったじゃん!」
氷月と雷の衝撃の告白に、俺はがっくりと項垂れた。横で吹雪も顔を赤くしてる。
「おめでとう、吹雪。良かったね。」
「女の人苦手だった嵐にも彼女ができるなんてね。僕も嬉しいよ。」
「南海…ありがとう。」
「風音……」
先にカップルになって周知の事実になっていた風音と南海ちゃんのコンビに祝福されて嬉しいと思う反面、密かに片想いやってた時から気づかれてたと知って恥ずかしくなる。顔から火が出そうだ。
「……と、いう事で!打ち合わせ始めるぞ!」
照れてるのを誤魔化す為に大きな声を出す。空気を読んでくれた氷月が皆に企画書を配り、打ち合わせは滞りなく始まった。
そして――
「武道館でライブが決まった!?」
「……あぁ。三ヶ月後にな。」
「あ、ありがとうございます!!」
社長に頭を下げると、社長は面倒くさそうに『頭を上げろ。』と言い放った。
「準備期間は短いかも知れんが、曲も曲順も演出も何もかも自分達でやってみたまえ。君らがどのくらいできるのか、見極めたいからな。」
「はい!」
「もう用は済んだ。帰ってもいい。」
「失礼します!」
綺麗に90度のお辞儀をすると、社長室を後にした。
神田社長は今も竜樹の件で俺達を良く思ってないようで、いつもこうして不機嫌になる。まぁ、それもそうか。竜樹を引き抜く為に俺達をデビューさせて本命の竜樹のソロデビューは実現させたけど、当の竜樹は戻る事を条件にしている。だから俺達を解散させる事も辞めさせる事もできず、こうしてお荷物みたいに接しているのだ。
でも今はそんな小さい事を考えてる場合じゃない!
ライブが決まったのだ。しかも武道館で!
「皆!武道館でライブが決まった!」
スタジオの扉を開けて開口一番にそう叫ぶ。
一瞬しーんと静まり返った後、その場は歓声で満たされた……
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