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ミアさんが話してくれた内容によれば……悪いのは全て『アインさん』だった。
ミアさんは一年ほど前からあのお店を交代で担当していたそうで、立場的には『王城の侍女さん』なのだそうだ。
……初めて知った!
っていうか、ここの侍女さんってお店も任されるのか……。
交代とはいえ、任されるミアさんは当時はなかなかの評判だったらしい。
まさに『愛想良く、気立ての良い綺麗なお嬢さん』。
騎士団の宿舎の裏側という立地条件からして、侍女さん達の花形の仕事であるらしい。
上手く騎士を射止めれば、将来安泰の玉の輿!!
ミアさんも当時はそう思っていたらしい。
因みにミアさんのご実家は、準男爵家で爵位としては一番下だそうだ。
玉の輿を夢見るミアさんは、勤務し始めて直ぐにアインさんに出会い恋をした。
優しいアインさんは気さくに話し掛けてくれ、色んな物を買ってくれたそうだ。
……なのだが、ミアさんが必死でアプローチを仕掛けてもアインさんには全く気付かれない。
同期の侍女さん達はここで多くの騎士達と愛を育み……どんどん寿退社をしてしまった。気付けばこのお店の担当はミアさんだけ……。
アインさんが駄目なら他の人……とも考えたらしいのだが……。
騎士団員は基本的に能筋集団である。
空気の読める騎士達は既に妻子持ち……残った独身騎士は能筋……。
アインさん達には能筋は程々に……と、あれだけ言ったのに……。
結局のところ、ミアさんはやさぐれてしまったのだ。それも重症化してしまっているほどに。
だからといって、お客さんをぞんざいに扱って良い理由にはならないよ?!
プライベートがどうあれ、お客さんの前では笑顔でいるのが接客業の基本であり、それが『お仕事』なのだから。
しかし……私はミアさんに同情してしまったのだ。
接客態度が悪すぎる事に関しては、本人も反省をしているので一旦、保留にする。
ミアさんの今後の対応次第で対応を考えようと思う。
それにしても……アインさんやツヴァイさんだけでなく、騎士団員全員に教育的指導をしなければならないな。
でないと集団お見合いはジルに全て持っていかれる。そう断言できる。
「ミアさんはアインさんのどこが好きなの?」
「え?!」
しまった……脈略がなさすぎた……?
真っ赤な顔で瞳を見開いたミアさんだが、直ぐにモジモジと両手を胸の前で遊ばせ始めた。
「……優しい所です」
「アインさんの身分じゃなくて?」
アインさんの本名は『アイン・ハートネットサーラヴィーテ』
ハートネットサーラヴィーテ伯爵家の長男だ。
うーん……相変わらず覚えにくい家名。
アインさんの身分は文句ないし、数少ない恋愛結婚推奨派の家でもある。
所謂、『優良物件』というやつである。
「……はい。身分関係なく優しくして下さるアイン様が私は好きです」
おお……。やっぱり、しっかり見てくれている人が……
「……って、ミアさんは玉の輿を狙っていなかった……?!」
チクッと指摘をしてみると、
「ええと……。それはそれ……的な?」
ミアさんは小さな舌をペロッと覗かせながら首を傾げた。
……た、逞しい。でも、そういう素直な所は嫌いじゃないよ?!
二十三歳のアインさんと十九歳のミアさん。
年齢的にも合うのではないだろうか?
なんて、……ついつい、お節介心を出したくなる。
アインさんの気持ちは分からないが……せっかく、アインさんを好きだというミアさんがいるのだから、くっ付けてあげたいと思うじゃない?
さっきまでケンカを売っていた相手とアインさんを……と思う私も大概かもしれないが。
「ミーガルド様……先ほどのお見合いの件ですが……アイン様はどなたかと結婚してしまうのですね」
「まだそうとは決まっていないけどね」
パタパタと飛んだ私は、しょんぼりとしたミアさんの頭をポンポンと優しく叩いた。
「でも……」
「まあ、本人は結婚願望がある様だから、遅かれ早かれそうなるかもね。『優良物件』だし」
「やっぱり……」
「でも、ミアさんがそこまで本気なら、お膳立てしても良いよ?」
「ミーガルド様!!」
しょんぼりしていた顔が一瞬で笑顔に変わる。
「た・だ・し!ミアさんはこのお店できちんと自分の仕事をする事!話はそれから!」
「はい!私、頑張ります!!」
「また舐めた態度で接客なんか一度でもしてごらん?私は聖獣の全部の力を使ってでも、アインさんにはミアさんじゃない可愛い人と速攻で結婚してもらいますから」
「う……っ。わ、分かりました!二度と手を抜いた接客はしません!!」
「はい。言葉だけでなく、態度でも示してくれるのを楽しみにしていますよー」
私はニッコリと笑った。
……え?まだ充分に根に持っているじゃないかって?
仕方無いじゃない。それだけ頭にきたんだもーん。
後はミアさんの頑張り次第で、水に流して祝福してあげるんだから、この位は、ね?
ミアさんにも『玉砕上等』で実行してもらわねば。
さあ、私は騎士団に行くぞ!!
ミアさんから貰ったラスクを手に、私は騎士団の練習場に向かって飛んだ。
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