18
資料庫の扉を開けると……
「やあ、待っていたよ」
額に真紅の宝石の様な物の付いた黄色のウサギの様な……リスの様な姿をした生き物が中にいた。
思わず……開いた扉を速攻で閉じてガチャっと鍵をかけた。
「ちょ……っ!?」
ドンドンと中から扉を叩く音がする。
……何・だ・あ・れ・は!!
資料庫の中に、あんな未知の生き物がいるだなんて聞いてないし……しかも、ぬいぐるみみたいな外見してたくせに……しゃべっていた!!
ショックのあまりに、自分が話せるモフモフの聖獣な事をすっかり忘れていた私は、呆然と頭を抱えていた。
異世界って凄い……。
これまた自分の事を棚上げした私は、深い……深い溜息を吐いた。
すると………。
「……僕だよぉ……神だよぉ……開けてよぉ……」
資料庫の中から、すすり泣く声が聞こえてきた。
って……神だと?!
扉を蹴破りたくなる気持ちを堪えながら、ガチャガチャと音を立てながら鍵を開けた。ついつい乱暴になってし待った事は……色々と察して欲しい。
もどかしさに苛立ちながら扉を開けると、先程のすすり泣きは何処へ行ったのか、ニコニコと笑う黄色い生き物が目の前にいた。
……言いたい事は色々ある。
先程聞こえたすすり泣きは嘘だったのか?……とか。
どうして今度はそんな黄色い生き物になっているんだ?……とか。
昨日会ったばかりなのに再会早っ!!……とか。
でも先ずは……
「今日は殴らせてくれるんですよね?」
私はニッコリ笑いながら、両手の指をパキパキと鳴らした。
「だから私の前に現れたんですよね?」
殺気を纏わせながら部屋の中に足を踏み入れると、神だと言う黄色い生き物は顔を引きつらせながら一歩後退した。
「ちょっ……!待って!!今日の姿も僕の本体じゃないから!!この子死んじゃうからっ!!」
ジリジリと神だと言う黄色い(略)……神を追い詰めて行くと、本棚を背に行き場の無くなった神がプルプルと震えだした。
「約束しましたよね?殴らせてくれるって」
「怖い、怖い、怖い……!!そのガチの声のトーン止めて!!」
「……誰のせいだと思っているんですか?」
「うっ……何でも言う事を聞くから!今は殴らないで!!」
『何でも』
その言葉に反応した私は上げかけていた右の拳を下ろした。
……まあ、殴るのは後でも良い。
この先、機会はある。その時にやれば良いだろう。
それよりも今はこの『何でも』の約束をさせねば……。
神の前で仁王立ちをしながら、ああでもない、こうでもない……と今後の作戦を瞬時に頭の中で練る。
因みに、私の今の大きさと黄色い生き物の大きさは、そんなに差が無い。傍目には小さな生き物同士が戯れている様にしか見えなかったりする。
若干、私の方が大きい位だろう。
よし!これで決まりだ。
考えをまとめ終えた私はニーッと口元を歪ませた。
「一つ目。神様といつでも交信出来る様にして下さい」
これを了承してもらえれば、いつでも神が殴れる!!
「そして二つ目。四代目神子の事を教えて下さい」
資料が残っていないのなら知っているはずの神に聞くのが手っ取り早い。
その機会が早くも巡って来てくれた事には感謝しかない。
「何だ……意外と常識的だね」
神はポカンと口を開いている。
……そんなに驚く程だろうか?
それならもっと難しい事を要求すれば良かったのだろうか。
ピクピクとこめかみが引きつりそうになった時、私の異変に気付いた神はコホンと一回咳払いをした。
「えーと、一つ目のお願いは了承したよ。ていうか、その為にこの子をここに連れて来たんだ」
神はそう言って、自身の胸に手を当てた。
「君と連絡が取れる事は、僕にとっても悪い話じゃないからね」
『この子を介せば君に殴られずに済みそうだから……』と、そう神が呟いた言葉は、しっかり私に聞こえてますよ?
ジロリと睨み付けると、神が慌てて話題を変えた。
「この子はカーバンクル。僕の造った幻獣だけど頭の良い子だから、きっと君の役に立ってくれるはずだよ。僕に用事がある時は額の宝石に向かって呼び掛けて」
神はそう言って笑った。
カーバンクルか……大昔にやった事があるゲームの中に、そんな名前のキャラクターがいた様な気がする。
まさか……それと同じ……?
チラッと神を見やると、神は黙ったまま笑顔で頷いた。
……察しろという事か。
空気が読める私は黙って了承する事にした。
***
怖い、怖い、怖い……!!
どうしてこの子は無駄に威圧感とか凄いのかな!?
僕神様だよ!?強いんだよ?!偉いんだよ!?
もう、笑って誤魔化すしかないじゃない!!
唯は、神が笑って誤魔化しただけな事には気付かなかった。
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