月曜日(3)

 僕の意識は夢の中に移動していた。どこまでも青空が広がり、足下は見渡す限り芝生に覆われている。右手側にはテレビCMで見たような大樹がそびえ立ち、その根元に高校の制服を着た美少女が立っていた。山城だ。僕はそちらへ歩み寄って、彼女に声をかける。

「やあ」

 山城は訝しげな顔をした。……おかしいな。彼女はにっこりと笑う――予定ではそうなっているはずだ。思いがけぬ反応にまごまごしていると、彼女は台本にない台詞を喋った。

「川相君? ここはどこなの?」

「あ……ああ、僕の夢の中」

 答えながら、僕は困惑していた。山城を制御できない。今日は調子が悪いのだろうか。

「川相君の夢の中? それはまた、妙なところにお邪魔しちゃったな……」

 山城は困ったように頭をぽりぽりとかいた。そして、横目でこちらを見ながら、

「その、よかったら、着替えてくれば?」

 と言った。彼女の視線は僕の下半身に向けられていた。僕はTシャツにボクサーブリーフという寝間着そのままの格好だった。多感な女子高生と向き合うには相応しくない。

 恥ずかしくなってすぐに着替える。とっさのことだったので、山城に合わせて高校の制服に変更した。服装だって、念じるだけですぐに変えることができるのだ。それが山城の目には手品のように見えたのだろう、すごいすごいと喜んでいる。

 僕は試しに風を吹かせ、雪を少し降らせてみた。それらは当たり前のように操作できたが、やはり山城だけは思い通りに動いてくれない。

「どうしてうまくいかないんだろう?」

 僕は呟いた。山城に対してではなく、ただの独り言として。

「川相君、夢の中だと普通に喋るのね。いつもは無口なのに」

 山城は感心した様子で言った。

「自分の夢の中じゃ、誰にも遠慮する必要がないからね。そうそう、今は豪介って呼んでよ。名前負けしてるかもしれないけど」

「あら、男らしい。じゃあ、豪介、私のこともユミカって呼んで」

 キャラ変わりすぎでしょ、とユミカは笑っている。彼女の言うとおり、僕は夢の中では開放的な気持ちになり、誰に気後れすることもなかった。こんな風にありのままの自分でいられれば、現実世界も楽しいのだろうが。

「ねえ、喉が渇いちゃった。どこかお茶できるところはないの?」

 恋人に甘えるという程ではなかったが、気を許したような口ぶりでユミカが言った。やはり彼女は僕のコントロールを受け付けなかったが、好意的なのはせめてもの救いだった。

「案内するよ。それっ」

 僕はさっと空飛ぶ絨毯を出現させ、足下に広げた。アニメ映画で見たような、青地に模様が描かれている絨毯だ。手を取って乗せてやるとユミカは大いに喜んだ。それは僕の考えた筋書きに近い反応だった。

 風を切り、高く舞い上がるとユミカは怖くなったのか、背後から腕を回し、僕の背中にしがみついた。彼女の胸はそれほど豊かではなかったが、柔らかい感触や温もりに僕は鼻の下を伸ばした。思ったとおりにならなくても、これはこれで良いものだった。

 そんな風に、何だかんだで僕はこのハプニングを楽しんでいた。現実でも女の子と一緒に過ごせばこんな気持ちになれるのだろうか。そんな愚にもつかない思いを抱きながら、僕は絨毯を飛ばした。

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