第152話 合流
「なんだよ、回復屋! おまえそんな凄ぇモン隠し持っていやがったのか!」
戦闘を終えると、ボロウが満面の笑みで優志の肩をバシバシ叩く。
「い、いや、俺もこんなふうに使えたなんて知らなかったよ。ついさっき、なんとなくできるんじゃないかなって」
「スキルは本能で感じ取るものと聞くが、その通りだったようだな。あと、君がこれまで経験してきたことが、新しい力を切り拓くヒントになったのかもしれない」
ゼイロの言葉を受けた優志は妙に納得できた。
思えばこの世界に来てから、相当な数の人を自分のスキルで回復させてきた。それによって蓄積された経験値が、優志に新しい「可能性」をもたらしたのだ。
「……なあ、ボロウ」
「あん?」
「これがあれば――エルズベリーの当主を元に戻せるぞ」
「!」
優志からの提案に、ボロウの表情が緩む――だが、それはほんの一瞬のこと。
「ありがとうよ、回復屋」
すぐに元通りとなったが、内心、ボロウもホッとしているのだろう。
「しかし、この土壇場でそんな力に目覚めるとはな」
「やはりユージ殿は只者ではなかったな」
ダズとエミリーも、優志の新しい力に期待を寄せていた。
もちろん、この二人に限ったことではない。
優志が回復水の剣で魔人を元の人間の姿に戻したという事実は、その場にいた全兵士たちにとってこれ以上ないほど勇気を与えた、士気は最高潮に高まる。
「さて……魔人の正体を拝みに行くか」
気持ちが昂る兵たちをよそに、ゼイロは静かな口調で倒れている魔人のもとへ。三人の勇者たちもそれに続き、さらに後ろから優志、美弦、ボロウらが追う。
「! この男は……」
どうやらゼイロは魔人になる前の男を知っているようだ。
魔人の正体は小太りで色白の中年男性――頭にはバンダナを巻いていて、腰に短剣を携えている。
「知っている人なんですか、ゼイロさん」
優志が尋ねると、ゼイロは静かに頷いた。
だが、美弦、ボロウ、ジョゼフの三人は知らないようで、「何者だ?」と互いに顔を見合わせている。
しかし、ゼイロ以外にも男と面識のある者がいた。
「! こいつは! ……エミリー、こいつを知っているか?」
「ああ、知っている。フォーブの街へ来る前に一度会ったことがある」
ダズとエミリーも顔を知っているようだ。
「二人もこの人をしっているのか?」
「ああ」
「私たちと同業者だ」
ダズたちと同業者――それはつまり、この男が元冒険者だったということだ。
「この男の名はベイルと言って……伝説の冒険者シンのパートナーだった男だ」
「シン……」
この世界に来て、何度か耳にしたことのある名前だった。
「……凄腕の冒険者だったんですよね?」
「ああ……ヤツにかかればどんなモンスターもイチコロだったからな」
「いつからかその名を聞かなくなったが……パートナーだったこの男が魔界にいるとなるとシンもこちらへ来ているかもしれない」
ダズとエミリーの予想立てに対し、ゼイロは「ふぅむ」と深く考え込む――が、すぐに本来の目的を思い出して仕切り直した。
「ともかく、今は本隊との合流を目指そう。ミツルくん、本隊にまだ動きはないということでいいかな?」
「はい。オウルズから異変を知らせる合図は出ていません」
上空を旋回飛行するオウルズが反応なしということはまだ動きがないということ。合流まで間もなくという意味でもある。
「副騎士団長殿、ベイルはどうしますか?」
「救援物資が積んである馬車に入れおこう」
「了解っと」
ゼイロからの指示を受けたダズは、軽々とベイルを担ぎ上げて馬車を目指す。一方で、優志たちは前進を再開。そして、とうとうたどり着いた。
「! 見ろ! 本隊だ!」
先頭を行く兵士たちが本隊を見つけた。
「これで少し休めそうだ」
「向こうも救援物資が必要になっているだろうし、ゆっくりとできる」
「あまり気楽なことは言えないがな」
補給部隊が到着したことで本隊の兵士たちはまるで子どものように喜んでいたが、同時に大きな任務をやり遂げ、同時にしばらく休めるという事実に増援部隊側の兵士からも安堵の笑みがこぼれていた。
「なんとか合流できたか」
「ちょっと休憩しましょうか」
「そうしよう……」
ボロウ、グレイス、ザラの三人も深々と息を吐いて本隊への合流目指して歩きだす。優志もそれについて行こうとしたのだが、ゼイロに止められた。
「少しいいか、ユージ殿」
「な、何かありましたか?」
「いや、これから騎士団長へ報告に向かうのだが……君にもついてきてもらいたい」
「お、俺に?」
「君のスキルの新しい使い方についても伝えておきたいのでね」
「分かりました。ついてきます」
こうして、優志は合流早々に騎士団長アデムと面会することとなった。
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