第51話 新しいスキル効果

 次の日の朝。


 宿泊客と一緒に食堂で朝食をとっている時、


「なあ、リウィル」

「はい?」

「スキルの効果って増えたりするのか?」


 優志は昨晩の件――リウィルの体に浮かび上がる赤い点が、新しいスキルによるものではないかと考えていた。そうなると、本来優志が持っている《癒しの極意》のスキルに新たな効果が加わった可能性がある。


「スキルの追加効果ですか……あ、もしかして、昨日の夜に話していたことと何か関係があるんですか?」


 ざわっ!


 リウィルの言葉に周囲が騒然となる。

 その異様な反応に、優志とリウィルが驚いていると、


「あの……おふたりは昨晩一緒にいたんですか?」


 美弦がおずおずとたずねてきた。

 その内容を耳にして、優志とリウィルが周囲の反応が示す意味を理解する。


 大人の男女がふたりきりで夜中に会う。


 その部分だけピックアップすると大変アダルトな空気が漂ってくる。周りの客たちが色めきだっているのも、それが原因だったようだ。


「い、いや、違うぞ! 俺の帰りをリウィルが待っていてくれただけだ!」

「さっきのスキルの話もその時に出たものなんです!」


 慌てふためきながら否定するふたり。

 その狼狽ぶりが逆にふたりの言い分が事実であると証明していた。

 本当にふたりが裏でこっそり会っていたのなら、あそこまで自然にテンパることなどないだろう。うまく誤魔化そうとあえて冷静なフリをするはずだから。


 必死の弁明が続く中で、


「おう、来たぜぇ」


 優志たちのいるテーブルにやって来たのはダズだった。


「ダズ? 風呂へ行ったんじゃなかったのか?」


 優志たちが食堂で遅めの朝食をとろうとした際に来店し、ダンジョンへ潜る前にひとっ風呂浴びようと浴場へ行ったはずだが、なぜか食堂に戻って来ていた。


「それが満員みたいでなぁ。これならもうちょっと大きく造っておけばよかったかな」

「増築はこれから検討していくよ――うん?」


 今後の営業展開を話しているうちに、優志はダズの体に表れた異変に気づいた。それは昨晩リウィルの体に表れたアレと同じものだ。


「ダズ……もしかして最近腰の調子が悪い?」

「! よくわかったな。実は昨日ちょっとヘマをやっちまってな。倒せないことはない敵だと油断してたら吹き飛ばされて腰を強く打ったんだ。エミリーにはしこたま怒られたよ」


「がっはっはっ!」と豪快に笑うが、一歩間違ったら死んでいたかもしれない事案だ。エミリーが怒っていたのはミスを咎めていたのではなく、死ぬかもしれないから気をつけろと注意したのだろう。


 ともかく、ダズが腰にダメージを負っているということはわかった。

 昨夜発覚したリウィルの肩こりと合わせ、新しいスキル効果は大体把握できた。


「こいつはうまく利用できそうだぞ」


《癒しの極意》からの派生効果――肩こりと腰痛という二点が大きなヒントになった。


「リウィル。さっきの質問の答えだけど」

「あ、え、えっと、スキルの追加効果についてでしたね。それはありますよ。発動条件には個人差があるようですが」

「なるほど……」


 優志にとっての発動条件。

 それを断定することは難しいが、少なくともモンスターとの戦闘で得られる経験値が関与していないということは明確だ。


 優志はこれまでの異世界生活を振り返る。


 自分が経験値を得られそうな行動――それに思い当たるのはたったひとつ。



 人を癒すという行為。



 確証があるわけではないが、それでほぼ間違いない。

 人を癒すことが優志の経験値を生む。

 その積み重ねによって、スキルの新しい効果が付与されたのだ。


「マッサージだ」

「え?」


 以前、スキル検証をしようとしたが、リウィルのビンタによって中断したままになっていたマッサージ効果がここへ来て開花した――それが優志の見立てだった。


「今の俺に見えているもの……それは押すべき体のツボ」

「「「ツボ?」」」


 リウィル、美弦、ダズの3人は互いに顔を見合わせた。

 ただ、美弦に関しては優志の言うツボの意味がハッキリと理解できた。


「ツボって……あのツボですか?」

「そのツボだよ、美弦ちゃん」

「壺、ねぇ……買い取り屋にでもなる気か?」

「そっちの壺じゃなくて――いいや。口で説明するよりやった方が早い。ダズ、ちょっとこっちへ来てくれるか?」

「おう」


 腰に痛みがあるというダズで早速実験をしてみることに。

 優志の自室にあるベッドにダズをうつ伏せに寝かせると、優志は赤い点のある部分へゆっくりと親指を添えた。それからゆっくりと力を入れていく。


「お? おぉ……」


 ダズの声色が明らかに変化した。


「どうだ?」

「こいつは凄いなぁ……まるで腰の痛みがユージの指先に吸い上げられているような……」

「効果は抜群みたいだな」

 

 今のダズのように、体調の悪さがあっても風呂がいっぱいで入れない時には優志のツボ押しでもある程度は対応できそうだ。


「回復水もいいが、やっぱりこうやって直接体をほぐしてもらった方が実感が湧くな」

「冒険者は体が資本なんだから、大切にケアをしないとな」

「そうだな……もうエミリーに心配かけるわけにもいかないからな」


 ダズはエミリーが怒っていた理由の本当の意味を優志のマッサージを通じて理解できたようだ。


 また、優志にとっても大きな自信へつながった。


 俺はまだまだ人を癒せる。


 新しいスキル効果マッサージ――さらに人を癒せる力を手に入れた優志は、それをたしかめるように力強く拳を握りしめるのだった。

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