第4話 幼き頃のように

 咄嗟に瞑った目を見開くと、ブロック塀に囲まれた小さな庭らしき所に出た。

 片隅には、トタン屋根の物置小屋。家主の趣味であろう家庭菜園が、こじんまりと耕されている。


「ここって…」


 至る所古くなっていたり、真新しいものが置かれていたりと記憶に誤差はあるが、まぎれもない---5年ぶりの実家だ。


「よし、とうちゃーっく。からの~」


 突然の帰省で感傷にほうけていると、またグイッと引っ張られ、幼い体からすると3倍ほどある塀を軽々と飛び越える。なんの負担もなく浮遊、着地に成功すると、目の前の林へササッと隠れた。


「さぁて。まずは、どの家からおどかしたろうかのう。」


 手を擦り合わせながら、悪い笑みを浮かべた横顔を見て我に返る。

イタズラなんてとんでもない!ここが地元だとしたら、ご近所に迷惑がかかるじゃないか。


「ちょっと!わるさしたらゆるさないぞ!」


「うちは、もらったら返すいい子じゃからの!とりっく そう そりーと!!」


 果たして、この自称座敷わらしがいい子という歳なのか、加えて、ありがた迷惑にも程があるポリシーを掲げられても、納得できるかと半ば呆れていると


「心配せんでも怪しまれたり騒ぎにななったりはせんぞ。

 この衣装は、幼帰家の家蜘蛛の糸とうちの霊力で織ったもので、着用した者のおもうがまま、第三者の目に映る。」


「つまり?」


 物は試しじゃと言い、林から抜け出すとその横に建っているへ向けて進むと玄関先に1人のおばさんが花に水をやっていた。見知った顔に近づくのを躊躇っていると、はよせんかと急かしたてられ、ついに目の前までやって来てしまった。起こりうる最悪の事態から抗うように目を背けた。すると、


「あれ、可愛い魔女さんと狼さん!ちょっと待っててね〜」


 とこちらを見るなり、すたすたと家に入っていってしまった。少しして、市販の小袋菓子を手に戻ってくると、はいっと言って渡してくれる。


「なっ?平気だったじゃろ。」


 貰ったお菓子を早速開け、むしゃむしゃと食べつつ、得意げに口角を上げる。いくら子供の時の姿とはいえ、赤ん坊の時から知っている私を見て怪しまないとは…。

 今までの不可思議な出来事といい、さっきの事が自分の疑いにトドメを刺す。

 信じざる負えなくなった。どうやらこの子の言っていることは正しいらしい。

 これからは脳に詰め込まれるであろう空想的知識に備え、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「うたがってわるかった。しんじるから、くわしいはなしをきかせてくれ。」


 そう告げると先ほどに増して嬉しそうな笑身を浮かべ、袋に残った最後の1粒を口に入れ、顎に手を当て1拍も置かぬうちに立ち上がる。


「ならまずは、ハロウィンを楽しみめいいっぱい遊ぼうではないか!」


 と走り出す。さっき寄った家をすぎ次の家、また次の家へと図々しく入ってはお菓子を貰っていく。最初はその勢いにひきずられるままだったが、徐々に楽しくなってきた私は、座敷わらしと横並びになって小さな村内を駆けずり回った。


 残すところあと1件。ここに着いた時に出てきた私の実家だ。


門が見えてくる頃、胸に手を当て息を整える。走っているせいかバクバクと耳にまで届く鼓動音が余計に緊張を煽る。そう心の準備をしていると、座敷わらしは家の前を素通りし、裏手に回ると一切泊まりもせず林の中へと進んで行った。獣道になった坂を登りきると、そこには幼少期に休憩所にしていた大木が、紅葉した葉っぱを積もらせながらも昔と変わらず、堂々とそびえ立っている。


 その足元まで近づき腰を下ろすと、何軒目かに行った手芸好きの千枝子ばぁに貰った、お菓子いっぱいの手提げ袋を膝の上に置き戦利品をつまむ。人の目を気にせず遊び回り、こうして休憩をとっていると体だけでなく心まで子供の頃に帰れたようで、ほっと一息ついた。

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