第43話:サンドボアとは一体……

【Tips010】マイケルマンについて


 マイケルマンは、十五年前にアメリカのテキサス州よりやってきたアメリカ人。

 若い頃から戦争で戦いに関わる生活を送っていた過去があり、銃撃戦、格闘技、刃物の取り扱い、狩猟生活といった野性味溢れる生活に長けている。

 年齢は七十二歳であるにも関わらず、身体の筋肉は限界まで鍛えられており、現在でも超循環士の戦闘指南の講師として活躍している。

 ちなみに、好きな食べ物はチーズケーキだという。


 ……

 ……


 ルーミルとマイケルマンさんの妙なプレッシャー攻撃から逃げるようにゲートをくぐって砂漠地帯へと移動する。

 ゲートを抜けた先には、ただ広大な砂漠が広がっている。

 湿度は低いが高温で、強く照りつける太陽が全身にくまなく刺さって痛い。

 私はさほど気にしてはいないが、ルーミルなら、紫外線カットのためにお肌のケアをしろという警告をして、強制的に私を脱がしてオイルを塗ったくってくる場面だろう。


 今ここにルーミルがいなくて本当に良かった。

 不特定多数の人たちの前で、裸体をさらすことになるのは、さすがに私でもメンタルに影響してしまいそうだ。


「……まあ、オイルを塗るためだけに、私も狩猟祭に参加することにしたんですけどね」

「……えっ?」


 背後に何か気配がする。

 私が振り返ろうとしたと同時に口を塞がれ身体をぐっと抑えつけられる。


「紫外線はシミやくすみ、肌荒れ、大人ニキビ、しわやたるみといった女性にとって究極の天敵となる存在を生成する害悪的存在……それを若い内からケアするかしないかで、未来は大きく影響します。さぁ、リヌリラ。全身をくまなくケアしましょう」

「ぎぃぇぇぇぇぇぇ……!!!! 脱がされるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」


 そうか、さっきマイケルマンさんがルーミルはタダでも狩猟祭に参加してほしいって言っていたから、入場退場は思いの外、自由に行うことが出来るのか。

 まさか、私が適当に妄想した悲劇が本物になってしまうというのは、展開的には創造できなかったが。


「別に脱がしてケアしても良いのですが、ここは公共の場所ですからね。今回は特別に……それっ!!」


 シュッ……


「うわっ、なにこれ……スプレー?」

「蜂蜜から生成したローヤルスプレーです。お肌に潤いを与えて、紫外線をカットしてくれます」

「こ、これも超循環で作ったやつなの?」

「ええ。ですから、余計な成分は含まれず、天然素材だけの身体に優しいオイルになります」


 少々甘ったるい香りはするが、確かに肌に触れても直感的にうっとうしいという感覚はない。

 化粧云々をし慣れない私にとっては、これくらいでちょうど良さそうだ。


「それより、本当に今のこれだけのために狩猟祭に参加したっていうの?」

「はい……と言いたいところですが、心変わりしましてね、やっぱり私も狩猟祭にちゃんと参加することに決めました」


 本当に急激な心変わりだ。

 ものの二分ほど前まで、いやいやいやと非積極的であったというのに、空から鳥の糞でもぶつけられて気持ちが変わったのかな。


「やっぱり、リヌリラの実力を間近で確認するには、私も参加して横にいた方が良いのかなと思いましてね」

「つまり、私の狩猟に協力してくれるっていうこと?」

「いいえ、私はリヌリラが頑張る姿を見て、真横でニタニタするだけの担当です。怪我をしようが、サンドボアに殺されてしまおうが、ただ鑑賞することに徹する一人の観客です」


 なんともマスコミ精神が強い意地汚い考え……というか。


「……サンドボアって、人を殺しにかかってくるの?」

「割と普通に殺しにかかってきます。サンドボアが私たちにとっての食糧であれば、向こうにとっても、人間はとても美味な食糧です。濃厚な脳みそ、引き締まった筋肉、熱く滾る血液。全てがサンドボアにとってのごちそうとなります」

「その、つまり……サンドボア狩猟祭に、精鋭達しか集めない理由って……」

「並の超循環士じゃ一瞬で食いちぎられて死んでしまうからですよ」

「うっへぇ……」


 いや、確かにイノシシって人間に襲いかかる生物だけどさ、一般人にとっては確かに危険な生物だけどさ、まるで恐竜を相手にするような驚異的生物ではなかった気がするけど。

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