第二十六便 ガソリンがないなんて言わないでっ!

『その戦争について、荷車の騎士と魔獣フッフにぜひとも頼みがある』


 グリシーヌを横目で見ながら王様が言った。


『この国も豊かとはいえないが、前線は更に物資が不足している。食料、武器等、こちらからの補給品を送る仕事を引き受けてくれないだろうか?』

「あ、それは」

『もちろん、報酬は払う。小国故、この国でとれる農作物程度だが』

「ご依頼は感謝します」 

 お兄ちゃんが頭を下げた。


「でも、現実問題として、輸送の中心的担い手になるのは無理です」

『やはり、他国でも利用可能なものの方が』

「あ、いえ、報酬の問題ではありません。ガソリン、まあ、フッフの食べ物の問題です」

『が??という食べ物? 動物か? それとも、人間か?』

『バカにすんな! そんなもん食うか!』

「フッフ! あ、すみません、王様。ガソリンとは、まあ一種の油です」

『おおっ! 油ならあるぞ!』

「あ、すみません。油って言っても、特殊なもので」

『一度ご覧になってみては?』

 グリシーヌが横から言う。

『こちらにありますので、どうぞ』

「あ、は、はい」

 お兄ちゃんが気乗りしなさそうについていく。


 でもね、お兄ちゃん。

 異世界ではね、こういう場合、精製済みのガソリンが大量に湧き出してたりするもんなんだよ。

 そもそも、そうじゃなきゃ、オレがここに来て喋れる意味がないじゃん。

 だから……。

 あ、あれ?


 見えない。

 聴こえない。

 喋れない。


「……フ」

 

 え、あれ?


「フッフ」


 あ、聴こえた。


「忘れてたよ。車から離れ過ぎた」


 あ、そうか。

 一定以上の距離を離れちゃえば、スマホの目も耳も口も使えなくなるんだ。


 うーん、なかなかうまくいかないね。


「で、どうだった、お兄ちゃん」

「いや、言葉もわからないし、慌てて戻ってきたところ。王様と姫様は先に行った。俺たちも一緒に行こう」


 そう言ってお兄ちゃんがスマホをホルダーにセットして、エンジンをかけた。

 厩と反対側に回ると、大きな壺の前に王様とグリシーヌが立っていた。


『こちらです』


 グリシーヌの自信に満ちた表情。

 どや顔がムカつくけど、ほら、やっぱり。


 柄杓っぽい物ですくったそれは……。


 本当に、ただの真っ黒な油だった。

 

 こら、隣で微笑みながら頷いてる無能な王様!

 クモサル島でのドリトル先生見習え!

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