第42話

「ちなみにだけど、その場所は雪山ほど過酷ではないわ」

「なんだ、あれ以下なのか」

「あれ以下って……。あれよりひどいのがあったらあなたたち以外だと無理だよ……」


 いや、その暴風雪の中で歩いていた人たちがいたけど。

 これは調査隊がクラハドールさんたちに気づいたときが面白そうだな。


「まあそれは置いて、依頼はこれだけ?」

「これだけって?」

「いや、複数あったら一緒にやっちゃおうかなあって」


 やるなら複数やったほうが効率はいい。

 ゲームでも複数受けるのは当たり前だった。


「残念だけど、原則は1つずつでお願い」

「なんでだ?」

「仕事がなくなる、が原因だよ」

「…あぁ!そういう事か」


 ゲームでは同じ依頼を何回も受けられる。

 だがこっちでは違う。


 例えば迷惑しているモンスターを討伐する依頼があるとしよう。

 そのモンスターを倒し、報酬をもらう。

 じゃあまたもう1回受けられるかと言えば受けられない。


 理由は簡単、その元凶のモンスターがもういないからだ。

 また被害が出れば依頼は出てくるだろうが、連続してそうなることはない。


 そうなると依頼の数もたくさんと言うわけではなくなる。

 冒険者が多ければ多いほどに。

 だから失業者を出さないように1つずつにしているんだろう。


「そういう事なら仕方ない、これだけを受けるよ」

「じゃあよろしくね。生存を確認出来たら――」

「分かってる。すぐに報告するよ」


 俺たちは依頼書を手に持ち、冒険所から出た。


「さて!じゃあさっそく家に向かう、その前に!」

「そうね、アクセサリーショップに行きましょう」

「アクセサリーショップ?」


 なんでそんなところに?

 さっきの話だと家に行く流れだったはずだが。


「ほら行くよディラ!」

「分かった、分かったから引っ張るなよメル!」


 別に欲しいものがあるなら構わないけど。

 でもそんなに急がなくてもいいんじゃない?


 俺たちは町にあるアクセサリーショップへたどり着いた。

 店の外装から分かるが、ここけっこう高そうだぞ。


「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」


 店のドアを開けると、中にはスーツを着ている人がいた。

 特徴的な角があるけど、羊の獣人かな?


「ねえねえディラ!これなんてどう?」

「へぇ、リングか……」


 ファラは珍しくテンションが高い。

 こういうアクセサリー系が好きなのかな?


 選んでいたのはきれいなシルバーリングだ。

 どういう効果があるんだろう?


「効果…なし……」


 マジかよ、何のためのリングだよ。


 うーん、でも欲しそうにしているしなあ。

 買ってあげてもいいか。

 初めての依頼達成記念も兼ねて。


「メルはどれがいいの?」

「ちょっとまって、真剣に考えているから」


 真剣に見ているリングを隣から覗いてみた。


 なにこれ、全部同じように見えるんだけど。

 でも真剣に見ているんだし、メルには全然違うように見えるんだろう。


「よし!これに決めた!」


 手に取ったのはファラと似たようなシルバーリングだった。

 どうしよう、同じものにしか見えない。


「それじゃあ買うか。すみませーん!」


 店員さんを呼び、2つのリングを頼んだ。

 わざわざ手袋をして綺麗な布の上に乗っけている。


 そういえば値段が載っていない。

 これって時価とかそういうやつだったり?


「合計金貨8,000枚になります」

「……わお」


 普段だったら絶対言わない言葉が口に出てしまったよ!

 依頼の報酬の8倍じゃないか!

 下手したらそれなりの家一軒を買えるぞ!


 まあ買っても財産に影響があまりないから買いますけど。


「では数えますので座ってお待ちください」


 俺たちは奥にある待合室で待つことに。


「あのリング何に使うの?」

「「結婚指輪」」

「えーっと……」

「動揺するのも分かるわ。でも必要なものなの」

「ディラが嫌だったらやめるけど……」


 二人は悲しそうな顔をした。


「嫌どころか、むしろうれしいけど……」

「「ほんとうに!?」」

「う、うん」


 一気に明るくなった。

 えっ、まさかだけど――


「お待たせしました。お金の方はしっかりございました。ではこちらの結婚指輪をどうぞ」

「「ありがとう」」


 二人はリングを手に取り、左手の薬指にはめた。

 大きさはぴったりだ。


「ご結婚おめでとうございます」

「えーっと、ありがとうございます……?」


 式どころか告白もしていないんですが!?


「これからもよろしくね、ディラ」

「僕も一緒によろしくね!」

「お、おう」


 俺たちは結婚した、みたい?

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