第39話

「ヴェルと言ったか!?」

「そんなことは別にいい。さあいくぞ、獄炎の山」


 手を打つと、俺の下から炎が現れた。

 そしてそのまま俺を包み込んだ。


「おい、いきなり魔法を使うなよ」

「むっ?まさか無傷だとは……」

「そんなことはいい。ヴェルは一体どこにいるんだ?」

「…ヴェルは遠くの国にいる」


 遠くの国……。

 まさかまた生贄にしたのか!?


「あの野郎……」

「次に行くぞ。退屈させるなよ」


 そう言うと俺の前へと移動してきた。

 図体が大きい割に相当早い。


「壱腕」


 一本の腕が俺の腹へモロに入った。

 速いうえに重い一発。

 普通の人なら腹に風穴が空いていてもおかしくない。


「弐腕、参腕」


 回数を重ねるたびに殴る腕が増えていく。

 加えて一発一発全部重い。


「肆腕、伍腕…陸腕!」


 最後まで重いパンチだった。

 勢いがありすぎて後ろの木々が吹っ飛んでいる。


 だが俺は一歩も動かなかった。


「終わりか?」

「…話以上の化物だ」


 どう話したかは分からないが、これぐらいの戦闘はよくやっていた。

 俺たちが戦うなら余裕の相手だ。


「それで、てめえは誰だ?」

「言ったであろう。シュラと」

「そうじゃない、何者なんだ?」

「なら改めて名乗らせてもらおう」


 そう言うと阿修羅とまったく同じポーズをとった。


「俺は地獄のシュラ。閻魔をも押しのける地獄最強の男だ!」


 閻魔って閻魔大王のことか?

 それより強いって……。


 ゲームにも一応閻魔大王はいた。

 いたものの、名前しか出ていない。

 未実装だったのか物語上必要だったのかはわからない。


 でも今の攻撃を受けた限り、シュラこいつはあまり強そうに感じない。

 まあ他の人から見たら相当強いけど。


「なるほど。じゃあ次はこっちから行くぞ」

「うむ、来いっ!」

「ヴェルの仲間なら容赦はしない。覚悟しろ」


 俺は斬龍頭を取り出した。

 これで耐えられないならそこまでってところだが。

 …耐えそうだな。


「無斬」


 力と速さを最大限に使い、ひたすら斬る単純な技。

 最終的に直径1センチぐらいになるまで切り刻んだ。


「ふむ、なるほど」

「やっぱり耐えるか」


 切れ目があるものの、割れない。

 やっぱり耐えたか。


 そう思った瞬間だった。

 バラバラとシュラは崩れていった。


「切れていた……?」


 いや、切れていたらすぐに崩れ落ちるはず。

 もしかしてわざとそう見せるために崩れたのか?

 よくわからないやつだ。


「お疲れ、ディラ」

「お疲れさまー」

「いや、まだ終わっては――」


 一瞬目を離した瞬間、シュラの破片が消えていた。

 それも跡形もなく。


「一体どういう事なんだ?」

「どうしたの?」

「…考え過ぎか。何でもないよ」

「そう、それじゃあ帰りましょうか」


 気になるが、いつまでもここにいるわけにはいかない。

 ヴェル達の居場所を聞けなかったのは痛いな。

 仕方ない、ガルガン王国に帰ろう。


「あっ、そういえば討伐の証拠がない……」


 踏みつぶされてそのまま吹き飛んでしまったんだ。

 どうしようかなあ。

 調査隊とかいて調べてくれたりしないかな?


「それなら目玉があったから持ってきたよー!」


 そういうとメルは大きな目玉を持ってきた。

 うわっ、グロい……。


「まあ、あるだけましか」

「じゃあ帰りましょう」


 こうして別の事件が起きたものの、初めての依頼は無事に終わった。



*



「おっ、帰ってきた」


 エマは地面を見ていた。

 その地面から破片がたくさん出てきてシュラへとなった。


「おい、話と違うではないか」

「でも楽しかったでしょう?」

「…俺でなかったらあそこで終わっていたぞ」

「だから君に嘘をついたんですよ」


 地獄のシュラはシュラ専用の魔法がある。

 それは死なないことだ。


 どれだけ切り刻んでも、どれだけ燃やし尽くしても、どれだけ高圧力の電流を流しても死なない。

 いや、死なないものの少し違う。


「死なないわけではない。毎回毎回俺が地獄に行くんだぞ」

「まあ実験も兼ねてですよ」

「実験だと?」

「ええ。地獄から戻ってくる場合、また生贄が必要なのか、という実験です」

「…ふんっ」


 実験は見事に成功。

 生贄なしにまた戻って来れたのだ。


「それにしても面白い奴だ」

「シュラもそう思いますか?」

「ああ。こっちは楽しそうだな」

「ええ、やっと見つけた楽しみなんです。もっと楽しみましょう」

「そうだな。こっちにいる間はそうさせてもらおう」

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