第32話

 手を引っ張られながら洞窟の奥へ行くと、そこは大きな空間が広がっていた。


「へぇ!洞窟の奥にこんな大きな空間があったんだ!」


 本当に大きい空間だ。

 何せこの空間には、丸々町一つがあるのだから。

 空間は大きさにして東京ドーム1個分ぐらい?

 相当広いぞ、これ。


 そんな洞窟でも光が差し込んでいた。

 穴が空いているわけでもなく、天井が光っているように見える。


「明るいけど、あれは疑似太陽かしら?」

「そうです!町のみんなで魔力を与えて明かりを保っています」


 実際の太陽とは比較にならないほど小さいが、それでもこの明るさを保つのは大変だろう。

 それならいっそ、数か月分の魔力を先に溜めておいたほうが楽だ。

 と言っても、その場合は俺たちでも結構魔力を持っていかれてしまうけど。


「さっそく町へ行きましょう!」

「そうだな。ちなみにだが、ここはどれぐらいの人が住んでいるんだ?」

「結構いますよ!詳しい数は分かりませんが……」


 そりゃあ数までは分からないだろうけど。

 見た感じ、町も大きいから人は確かに多そうだ。


「あっ、町長!」

「おぉ、ミアか。どこに行っていたんだ?」

「ちょっと外に行ってて」

「ほう、よく無事に帰って来たな」

「いやー、無事ではなかったんだけど――」


 ミアは町長に自分の身に起きたことを話した。

 全部話したら怒られていたけど。

 そりゃあ怒られるわ。

 俺たちが通ってなかったら死んでいたんだぞ。


「ミアを助けていただきありがとうございます。私はこのデローザの町の町長、クラハドールと言います」

「よろしくな、クラハドール」


 町長と言ったものの、随分と若い。

 どう見ても20歳から30歳の間にしか見えない。


「ところでなぜこんなところへ?」

「そうそう、ここにいるアイスマウンテンロックっていうのを倒しに来たんだ」

「アイスマウンテンロック……?」


 聞き覚えがないみたいな顔をしている。

 ここに住んでいたら知っていそうなものだけど。


「すみません、力にはなれなさそうです」

「大丈夫だよ。それはこっちで調べるから。少し話が変わるけど、聞きたいことがあるんが」

「なんでしょうか?」

「ここに住んでいる人って、外へ普通にでれるの?」


 疑問に思っていたことの1つ、なぜミアは鎧などを着ずにあの暴風雪の中にいれたのか。

 冒険所ではあまりの勢いで体を貫通すると言われている。

 それなのに、外傷なしに外にいたというのは、何か引っかかる。


「全員ではないです。レベルが1000を超えた者は外出を許されています」

「「「!?!?」」」


 聞き間違い、というわけではなさそうだ。

 ファラもメルも同じように驚いているからな。

 俺だけ聞き間違えた、なんてことではない。


「ちなみにクラハドールさんのレベルは?」

「私は最近少し上がり、Lv.1850です」

「ほぼ2000じゃないか」


 どういうことだよ!

 最初にいた村だと村長はLv.10ぐらいだったぞ!

 ほぼ200倍じゃないか……。


「……ミアのレベルは?」

「1003だよ!最近上がったばかりなんだー!」


 こんな小さな子供のミアでも1000を超えている。

 一体何なんだよこの町は!


「ところでディラさんたちのレベルは?」

「「「Lv.1だけど?」」」

「「えっ?」」


 そんなポカーンってする驚くことか?

 いやまあ、1000に比べればそりゃあ低すぎて驚くだろうけど。

 何もそんなに驚くことはないでしょ……。


「ご、御冗談を。Lv.1がこの暴風雪の中に入れば風穴だらけになりますよ」

「と言っても……」

「事実だからねー」


 決して嘘を言っているわけではない。

 ただ、Lv.9999のステータスでLv.1という被り物を被ってしまっただけなんだ。


「まあそれは置いといて」

「置いとくんですか……」

「Lv.1ってのすごく気になるんだけど……」


 だって、いつまでも俺たちの話をしていたら進めないじゃないか。


「そんなにレベルが高いなら冒険者をやっていたりしているのか?」

「「……冒険者って?」」


 えっ?

 もしかして俺、質問を間違えた?

 そんなはずはない、よね?


「ここに冒険所というところはないのかしら?」

「そういう建物はありませんよ。私たちは昔からずっとここで暮らしていますので」


 どうやら俺たち、秘密の町を見つけてしまったみたいだ。

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