第27話

「C班で回復の準備ができていた者はすぐ前へ!A班、B班でケガがない者、浅い者は回復に回れ!」

「副隊長!後は我々でやりますのでお休みになって下さい!」

「私は構わない!早く仲間を!!」


 シャゼルさんは自分がケガを負っているのにも関わらず、指示を出している。

 くそっ!まさかいきなり自分の兵を爆弾にするとは思わねぇだろ!!


『デルガンさん、無事か?』

「え、ええ。なんとか無事でした」

『動けそうか?』

「動けます。シャゼルに比べれば軽いものです」


 遠くからだと見にくいため、デルガンさんに付けた光映像ライト・ヴィジョンと、こっちの光映像ライト・ヴィジョンをつないで向こうの状況を見ることができる。

 デルガンさんは動けると言っていたが、ケガはひどい。

 爆発したときは前のほうにいたんだからケガがひどいに決まっている。


 それにシャゼルさんのほうはもっとひどい。

 最前線にいたのにもかかわらず、よく生きていたと思うほどだ。

 今動いているのもだいぶ無理をしているはず。


完全回復パーフェクトヒールなんだけど、あと2回使えるんだ』

「あと2回もですか……?」

『2回しかないんだ。便利な魔法だが、対象は一人だけ』

「まさか……助けたい者を選べと?」

『その必要はないわ』


 ファラが割って入ってきた。


「どうしたんだ?今は――」

「選ぶ必要はないわ。回復魔法を得意とする人達を集めたから」

「集めたのは僕だけどねー。まあ立案者はファラだけど」

「集めたってどういうこと?」

「アリアさんたちを呼んだんだよ!2番隊は魔法が使える部隊だから回復魔法を使える者はいないかーってね」


 そうか、まだ他の部隊がいるんだ。

 これなら負傷した者を全員助けられるかもしれない。


「ちょっと行ってくるわ」

「どこに行くんだ?」

門のこの下よ」

「……何か策でもあるのか?」

「ディラを見習って私もやってみようかと思ってね」


 俺を見習って?

 一体何をする気なんだ?


「アリアさん、もういけますか?」

「ええ。すぐに出発できます」

「すぐに終わりますので少し待ってください。ファラの贈り物ファラ・ギフト


 ギフトのパクリかよ!

 でもファラのギフトか。


「内容は何なんだ?」

回復力超強化ヒーリング・エンチャントだけよ」

「だけよって……」


 回復力超強化ヒーリング・エンチャント回復力上昇ヒーリング・アッパーの上位互換だ。

 そもそもギフトは俺が初めての試みでつくったものだ。

 俺は苦労して作ったのに、簡単にできてしまったため少し凹む。

 この才女め。


回復力超強化ヒーリング・エンチャントを使用後、すぐに回復魔法を使えば多くの人を救えるはずよ」

「だそうだ。皆の者いくぞ!!」

「「「「「おーー!!」」」」」


 これでひとまず回復のほうは安心だ。

 亡くなった者もいたが、これ以上犠牲が出なさそう。


 後は戦いのほうだが、向こうは全滅している。

 だけどあいつのことだからこれだけでは済まないだろう。


『ディラさん?おーい、ディラさーん!』

「あっ、ごめんごめん忘れてた。でも朗報だ。みんな助かるかもしれないぞ!」

『本当ですか!?』

「ああ、今2番隊が向かっているはずだ」

『ではこちらは動きやすいようにしておきま――』

「どうした?」

『ヴェル……ユーラス……!』


*


「お久しぶりですね。デルガン」

「ヴェル、なぜここに……」

「あなたに言っても分からないと思いますが、ディラ達見ている人は分かりますからね。

 残念ながら私の軍が全滅してしまったため、こうして戦いに来たんですよ」


 俺たちに向けて言っている。

 残念ながら全滅してしまった?

 自分で全滅させたのによく言えるな。


『デルガンさん、俺が渡したものの中に生命炎ファイア・オブ・ライフっていう魔法があるから、チャンスがあったら使ってくれ』

「ええ、出来る限りやってみます……!」

「おや、戦う気でいたんですか?そのようなケガをしたままで」

「後ろに仲間がいるんでね。それに俺は3番隊隊長だ。前線から引くわけにはいかない」

「そういえば昔から馬鹿がつくほど真面目でしたね。いいでしょう、相手をしてあげましょう」


 デルガンは剣を抜いた。

 だが、ヴェルは腰にある剣を抜こうとしない。


「ただし相手はこの人です」

「!?!?」


 おい…どういうことだ?

 なぜあんなところに国王が、サン・ガルガンがいるんだ!?


「国王様…なぜこのようなところに」

「戦う前から戦意喪失ですか?何のために剣を抜いたことやら」

「どういうことだヴェル!国王様に何をした!!」

「私がずっといた城ですよ?移動するのも見つけるのも容易です」


 油断していた。

 俺たちの中から1人国王のそばで待機させておくべきだった。

 でも護衛のソガネさんがいたはずだ。


「おっと、武器を渡してあげないといけませんね」

「それはソガネの剣!!」

「ちょうどいい剣があったので拝借しました」


 俺も見覚えがある。

 会議室でソガネさんが持っていた剣だ。


「ファラ!今すぐ城に戻って負傷者の回復を!」

「分かったわ」


 もうこれ以上こんなことを続けるのは酷すぎる。

 このまま続けても、ヴェルの思い通りにしかならないと思えてきた。


「メル、悔しいが今回の戦いは――」

「それ以上は言わないで……。お願い」

「…わかった」


 ファラには申し訳ないけど、このまま残ってもらおう。

 俺たちはデルガンさんのところへ移動ワープした。


「ディラさん!」

「ふふっ、予想通りです」

「まずは国王を返してもらうぞ。完全回復パーフェクトヒール


 目が虚ろで洗脳されている国王を正気に戻した。

 国王の回復と一緒にデルガンさんのキズも治した。


「ヴェル」

「なんでしょうか?」

「今回は俺たちの負けでいい。この戦いは終わりにしよう」

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