ピクシー系エルフ種の少年、ジーゴ=トーリュ
叶えられない夢を叶えるための第一歩
エルフ族の少年ジーゴ=トーリュは、ある道具屋の中で頭を下げ続けていた。
頭を下げ続けられているこの道具屋の主はかなり困った顔をしている。
いや、困ったというより、年端もいかないその少年でもその気持ちが簡単に読み取れるほどの迷惑そうな表情を顔中で表現している。
「あのなぁ……。そんなに頭下げられて頼まれてもよ、俺はあくまでこの店のオーナー。店主なんだよ。あいつら相手に勉強会始めたのは、あいつらの生活がこの後少しでも楽にしてやりたかっただけなんだよ」
店主の言うあいつらとは、ジーゴとそんなに年が離れていない年代の子供達のこと。
そしてジーゴ同様、いろんな事情で家族から、一族から追い出された子供達である。
この世界にはいろんな種族の者達がいる。
頭を下げているこの少年、ジーゴはエルフ族だが純粋な種族ではない。
彼の背中にトンボのような透き通る羽が四枚付いている。それは妖精の一種であるピクシーの種族の特徴で、エルフ亜種である。
彼の種族の性別は純粋なピクシー族同様、圧倒的に女性が多い。だからその種族では、男性は非常に大切に扱われるのだが、着ている薄着の衣類は元々の色は長い間着続けられていたためか、汗で汚れ、土や砂に塗れている。おまけに穴だらけ。ピクシー族もエルフ族も男女ともに、普通であれば見る者の目を惹きつけて離さないことが多い。
容姿は引けを取らないと思われるが、体も汚れたままなので見るも無残としか言いようがない。
だがそれは、この店の開店前に集まってくる子供達の共通点の一つである。
「俺が教えている勉強は、ここらへんじゃその道のプロがいる。そのプロから目をかけてくれるんじゃねぇかと思って俺の……まぁ気まぐれでやってることなんだよ。つってもやったりやらなかったりというのは良くねぇからな。休日祭日問わず勉強ごっこをやってるってわけだ」
店主はそう言うが。この店は休店日がない。つまり、店主の言う勉強は毎日この店の外で開業時間前にできるということだ。
何の勉強かというと、魔物についての知識、武器や防具など、魔法についてなどなど。
自活しやすい職業の一つである冒険者。死んだ魔物が変化して何かの物質になったり、魔獣の死体から食用肉を捌いたりして生活の糧を得たり、それを町の店に卸すことで生活費を稼いだりできるのだ。
しかし誰もがその仕事に付けるわけではない。
冒険者になるにふさわしい体力や知力、魔力が必要になる。
それを鍛えて伸ばすのが冒険者養成所。この店の店主が、入所する伝手がない子供達相手に、その養成所に少しでも入りやすくする手伝いをしているというわけだ。
普通の子供達なら、一族や家族と共に生活しながらその能力を伸ばしていく。
しかし身内に見限られるには理由がある。
その能力のいずれか、あるいはすべてが欠けているのだ。あったとしても、あらゆる仕事に就くために必要な分を満たしていないのである。
「騎士になりたいっつってもなぁ……。この店に出入りする者は、動物や家畜化した魔獣を操って魔物討伐に出る職とは無縁の冒険者、ばっかなんだよ。そんなに頼み込まれたってよ」
店主の説明の通り、移動速度が速い生き物や長距離移動を平気でできる生き物に騎乗して、戦地に赴くことが出来る者が騎士になれるのである。その職種は戦士、魔術師を問わない。
そしてそのためには、その生き物との意思疎通が出来なければならないし、戦場に出るのだから体力、魔力、武力なども長けていなければならない。
もっともそれらがなくとも騎乗できるのであれば、戦地への伝令役には就くことは出来る。それもまた重要な仕事である。
「え?」
「え? 何?」
「えっと、騎士には憧れてるけど……」
この日の勉強会が終わってすぐ、最後まで残った少年ジーゴはほかの子供達全員が店の前から立ち去った後店主にひたすら頼み込んでいたが、店主はてっきり、騎士になりたいという願いを一刻も早く叶えてほしいという内容であると思い込んでいた。
「なんだよ、違ったのかよ。言いてぇことがあるなら『お願いします』ばかりじゃわかんねぇんだよっ。無駄な時間使わせやがって。で、何お願いしてぇんだ? 俺に出来ねぇことなら即断る」
「えっと、それは……」
ジーゴは、店主に頼み込む願いは、騎士になるという叶えられそうにない願いに繋がる奇跡に繋がる期待に胸を躍らせながら、次の言葉を出すために少し息を吸い込んだ。
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