第104話 人々の叫び

 咲子を含めた全てのアンドロイドが電力を供給し始めた。だが、冷却塔及びMISAKOをフル稼働するために必要とされる電力があと二十パーセント足りなかった。

「そこは俺たちの出番だな。お前ら、持ってきた発電機全部繋ぎきれ!」

 そう言ったのは反アンドロイド集団の長をしている通称だった。すると次々と発電機を持った男たちが動き出し、モーターを始動させ始めた。

 俺には意味が分からなかった。反アンドロイド集団は名前の通りアンドロイドを社会から排除し、人間的な生活を求めている集団だ。そんな集団がアンドロイドを製造している会社の危機を救おうとする等、到底理解が出来なかった。

「おい、江口」

 その時、長老がこちらへズカズカと歩いてきた。俺は顔が強張ったのが自分でも分かった。

「勘違いしないで欲しいが俺はあんたが大嫌いだ。これは、あんたのためにやっている訳じゃない」

「では、誰のためにやっている……」

「認めたくないが、あんたは立派なアンドロイドを作ったもんだよ。咲子だっけ? あのアンドロイドの言葉に俺は心を揺さぶられた。咲子は俺たちに今の状況を全て教えてくれた。そしたら、居ても立っても居られなくてよ。──未来のために、少しでも動けるなら動こうと考えてここにやってきたんだ。だから、これはお前のためにやるんじゃない。未来の人類のために、やってるんだ」

 俺は何も言えなくなった。この時代に生きるありとあらゆる考えを持った人間がこの場所へ集結し、未来を変えようとしている。その事実に俺は衝撃を受けて、動けなくなった。


 私は熱波の中、必死に意識を保とうとしていた。外で大勢の人間が何かをやろうとしている事は分かっていたが、何が起こっているのか全く分からずにいた。美沙子さんもまるで人間のように暑さにふらつき、必死に意識を保とうとしているようだった。

 その時、ガラスを叩いてこちらに何かをいいたげな男の影が見えた。それは、モールで集団狙撃を行った反アンドロイド集団の長老だった。今度こそ殺されるのか

、一瞬そう思ったが辺りの状況を見ていると、どうやらそうでも無いらしい。男はこちらを見ながら大声で叫んだ。

「青年! 未来はきっと明るい! そのまま突っ走れ! 死ぬんじゃないぞ!」

 その声と重なるかのように江口社長の声が聞こえた。

「冷却開始!」

 その瞬間、部屋中に冷気が強風で流れてきた。一気に身体が冷やされていくのが分かった。なるほど、部屋を冷やすための工夫をやっていたのか。江口社長もこちらに近づいてきた。そして、マイクを手に取ると一言言い放った。

「やりきれ青年! 演目再開!」

 私は再び心にスイッチが入った気がした。

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