第68話 大越出版ー原地
原地はタブレットの画像を次へ進めた。そこには、昔の新聞記事の切り抜きをスキャンしたものがあった。
「この記事、忘れたなんて事はないですよね」
「椎葉書店の新聞を残していたとは。流石は一流出版社になっただけある」
「もし、この新聞記事が捏造ではなく本当の記事だったとしたら、今のアンドロイド産業は破綻するでしょうね。この記事に書かれている事件を発端に国はアンドロドの安全性を担保出来ないと判断し、事実上『人体機構研究所』の解体を命じました」
「確かに。あの事件は悲しい事件だった。だが、正式リリースする前の事故であり、過失も認められなかった。あの事故は誰にも予測出来なかった」
「確かに、この記事を見る限りだとその様です。しかし、この新聞が書いてある事は正しくなかったんです」
「どういうことだ」
「江口社長。貴方には秘密裏に椎葉社長が野村さんと近藤さんに取材をしていたんです。そして、これが当時の取材内容を事細かに書いているノートです」
原地は今度はバッグから日焼けしたノートを取り出した。そこには、当時の椎葉の字で事細かに取材内容が記されていた。
「この取材記事は何らかの圧力によって公開されませんでした。今回私たち大越出版の社員はこの数百ページに及ぶ取材記録を読み上げ、徹底的に調べました」
俺はただ黙って聞くしかなった。もう、何も発する言葉が思いつかなかった。そうだ、圧力をかけたのは国だった。
「調べた所、江口社長含め、野村さんも近藤さんもアンドロイドのアルゴリズムには重大な欠陥が潜んでいる事を知ってた事になりました。そして、その欠陥を把握した野村さんも近藤さんもアンドロイドのリリースを見送る事を提案した。――しかし」
「しかし、私が強引にプレリリースを行ってしまった」
「――なぜですか。江口社長。貴方が一番アンドロイドの事を知っていたでしょう」
「あの時、私は国からの圧力に屈してしまった。そして人体機構研究所の予算が尽きる寸前でもあった。あの時もしリリースをしなかったら、多くの失業者が出てしまう。当時、アンドロイドは実現不可能と言われ続けていた。『あんなものは”おもちゃ”』だと揶揄されていたんだ。私たちが研究を止めれば、誰もアンドロイドを作りあげる人たちが居なくなってしまうと思ったんだ」
「そして、当時のプレリリースで研究所員に配られたアンドロイドによって、研究所員の家族が亡くなる凄惨な事故になってしまったわけですね」
「あの時の事故は、国にも責任があると俺は思っていた。だが、国は圧力を研究所にかけた事を完全否定し全てを人体機構研究所が起こした不運な事故へと仕立て上げたんだ」
「そういう事だったら、急いだ方がいいかもしれません」
原地はタブレットを閉じた。真っ暗闇になった画面に原地の険しい眼差しが見える。
「どうやら、西本の黒幕は野村さんと近藤さんのようです。そして、西本の元へと河本大臣が呼ばれているという事は、かなり危険かと」
「野村と近藤が、動いているのか……。――まさか!」
私は全てが繋がった気がした。私は完全に嵌められたのかもしれない。心臓が酷く傷んだ。
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