第18話 美沙子開演Phase1
暫く待っていると、客席の照明がゆっくりと落ちていった。
――遂に始まる。
私は自身の心に「心の準備は出来たか」問い掛けた。たちまち辺りは拍手で溢れかえり、至るところから「美沙子!」という声が飛んだ。一体どれだけ人気なんだ。やがて舞台の幕が垂直に落ち、それと同時に拍手も鳴りやんだ。
――舞台の真ん中で美沙子さんが天に向けて手を掲げて立っていた。白いスポットライトが美沙子さんを照らし上げる。
『私は――この世界で生きる機械。孤独に愛された、女だ』
余りの美しさに私は息を呑んだ。例えるなら天使だ。直前まで見ていた美沙子さんの恥ずかしそうな姿は無く、凛としている。
『私は人間の姿をしている。だが、私の身体に血は通っていない。だから、孤独になった』
どうやら、テーマは最近何かと話題なアンドロイドのようだ。美沙子さんの様な人がアンドロイドだったら間違い無く売れるだろうと下衆な考えが頭を過った。
いやいや、作品に集中せねば。今美沙子さんは孤独なアンドロイドを演じているのだから。
『私は周りから捨てられ、殴られ蹴られ、ゴミ同然に扱われました。そして、この細くて狭い、小さな路地に逃げ込んだのです。私の名前はユリア。アンドロイドだ』
「完璧」という言葉が相応しい様な演技力だった。まだ劇の途中だと言うのに再び拍手が巻き起きた。舞台の照明が暗くなり、場面が展開する。
次に出てきた場面は美沙子さん演じるユリアがベッドに寝ているシーンだった。近くに暖炉らしき物があり、薪が焼ける音がスピーカーから鳴っている。ユリアはベッドから起き上がると話始めた。
『私が昔住んでいた家は大変裕福な所でした。私を初めて買ってくれた人は、大きな家のなかで幸せそうに過ごしていました。機械である私に「自分の部屋が無いのは可愛そうだ」と言って、一つ私に部屋をくださいました』
左側の舞台袖から老人が出てきた。老人は優しい笑顔を浮かべてユリアに話し掛ける。
『ユリア。お部屋は気に入ったかね?』
『お爺様! こんな私のためにお部屋を用意してくれて、ありがとうございます!』
『私の孫のような存在だからね。そりゃ大切にするさ。私の家にはもう私とお婆さんしかいない。私も歳を取った。最後ぐらい昔の様に明るく暮らしたいんだ』
老人はユリアの頭を撫でると、悪そうな腰を触りながら舞台袖へと戻っていく。再び舞台が暗転し、ユリアが一人照らされた。
『しかし、幸せな生活は長く続く事はありませんでした』
先が気になる展開に私の心はすっかり掴まれたのだった。いつかの恋に落ちた日のように。
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